2012年12月30日

市場

鶴橋の市場に長男の同級生Sくんの「あんこ」専門の魚屋さんがあって、お正月の食材を買いに朝から夫婦で地下鉄に乗って鶴橋に向かう。鶴橋と聞くと焼き肉屋さんとか、韓国系のお店がゴチャゴチャ並んでいる姿を連想するとおもうのだけれど、市場の東側にある疎開道路沿いから入ると新鮮な魚介類のお店がほんとうにゴチャゴチャいっぱいあって、十数年前に亡くなった明治生まれの祖父は、毎年の正月だけでなく、何ヶ月かに一度、そこの市場に新鮮な魚を買いにいっていた。

結婚するまでは、お正月前になると、おじいちゃんとおばあちゃんの運転手として、鶴橋の市場や黒門市場の前で食材を買い終わるまで待機して待っていた。それで、市場の中を祖父や祖母と一緒に歩いたことが一度もなかった・・・。初めてお正月前に歩く鶴橋の市場。ひとひとひとの中を押し合いへし合いしながらゴチャゴチャした通りを歩く。時折、奥方が、ここ、おばあちゃんが買ってた鰹節屋さん。ここでおじゃこ買ってた。ここで鮭買ってたわ。と聞かされると、当時の自分の内面的な状況と、皆を喜ばすために食材を買ってくれている祖父や祖母と、そして、いまここにいる「私」の心情。それらの情報が唐突に編集されて突発的に出会あったので、なぜか妙にセンチメンタルな気分になる・・・。周囲の威勢の良いかけ声と人混みのざわめきと冬の雨がそんな気持ちを助長するのだなぁ。

「まちのえんがわ」のピザを作るワークショップの1ヶ月ほど前に、奥方が食材を買いに鶴橋の市場に行くと、偶然、ピザワークショップの講師のイワオさんがお店の食材を買いに来ている時に出くわして、会話をかわしたらしい。それが、何かの引き金になったのかどうか、Sくんと長男が知り合ってかれこれ15年間、一度も行ったことがなかったそのSくんのお父さんのお店を尋ねてみようと、なぜかその日、そう想ったのだと云う。

うちの長男とSくんは仲が良かって、中学生の頃は、お互いの思春期に荒れ狂う反抗期を目一杯謳歌した仲でもあって、そんな裏事情もあってか、その魚屋さんで、うちの奥方とSくんのお父さんとが初めて会うと、お互いにあの時はねぇ・・・という、まるで戦友のように会話をしながら、あの時に戻れるのなら、「親として」もう一度やり直したいわ。と、Sくんのお父さんが語ったという。

その話を奥方から聞かされた「私」にも同じような気持ちがそれなりにあって、当時息子も大きく傷ついたのだろうが、親も諸刃の剣によって、かなりの傷を負っていたのだとおもう。そんな妙な裏事情が、荷物持ちの役割として、雨が降っていようが、槍が降ろうが、どうしても、鶴橋の市場までその店で「あんこ」を買いに行く切迫感のようなものがあって、今日、初めて会う、Sくんのお父さんとお母さんと手伝いに来ていたSくんと、しっかりと握手を交わした。そして、良いお年を!と「あんこ」と共に晴れ晴れした笑顔でお互いを労う。

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昼からは、奥方と私の母と私の弟の奥さんと4人で黒門市場へお正月の買い出しに向かう。もちろん何度も車の運転手として待機していたことがあったのだけれど、お正月前の黒門市場の賑わいは、恥ずかしながら初体験。鶴橋市場がゴジャゴジャして迷路のようで、なんともいかがわしい感じがして、でも独特の味わいがあって好きなのだけれど、流石に黒門市場は天下の台所といわれたほどの風格があって、一直線にドカーンと大道で、人人人人人っといっても心地良い混み具合で、お洒落なマダムや若者のカップルも多い。

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お正月の朝、おせちと一緒に並べる鯛と夜に食べるフグが今日のお目当てで、昔から買っている店があるらしくて、既に予約をいれてあるようだった。その他、鰻とか年越しそばの天ぷらとか、ついでにカレーとか、お味噌とかも。まぁなんだかんだ買ったわけで、とにかく店の人に活気があって、その活気が私たちお客さんと店に並べられた魚など食材との間の「通訳者」のような役目をはたしながら、食材とのコミュニケーションを促されて、この店のいま並んでいるこの切り身の魚は、海からとれた新鮮な魚やでぇ!と、「自然の恵み」を背景に感じさせられるところが、黒門市場と鶴橋市場の魅力なのだろうか・・。

前々回のブログ「カマド」で引用した大阪アースダイバーには、

(前略)
カマドはかつて家の中心におかれて、そこで食材も人生も、転換をおこしていた。
(中略)
さて、「都市のカマド」といえば、それは古来からの市場ときまっていた。マーケットともバザールとも呼ばれる市場は、実際カマドと同じように、さまざまなものの転換がおこる場所である。市場に運び込まれたいろいろな食材は、そこで交換されて、家庭の台所へ持ち込まれる。大地と海がもたらした恵み(贈与物)は、市場でお金に換算されて交換されるが、家庭の台所で調理されて、みんなの健康をささえる恵みに姿を変える。都市を大きな家に例えれば、たしかに市場はそのカマドにあたる。

年の暮れに都市のカマドたる黒門市場と鶴橋市場で、人混みに揉まれ押し合いへし合いしながら、自然の恵みたる食材を買って、お正月に家族と共にそれを分かち合う。行く年来る年の転換がおこり、お金の交換を通じて、自然の恵みが健康をささえる恵みへと転換される。そしてきっとこれら一連の行為が、心のリセットと心の転換を促進させるのだとおもう・・・。

この一年間、ブログをお読み頂きありがとうございました。

皆さん、良いお年を!

投稿者 木村貴一 : 2012年12月30日 23:38 « 風土と変化 | メイン | 労わる »


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