2006年04月16日
いの一番
木造住宅で木組みを造るために木材を手加工することを「刻み」と呼んでいる。 最近は手で加工するよりも機械で加工することの方が多い。それを、プレカット加工と呼んでいて、コンピューターを入力する担当者と打ち合わせをするのに時間がかかるものの、 あっという間に機械加工された木材が出来上がってしまうのだ。まぁ、お金の話をするのもなんなのだが、例えば、 プレカットが1坪あたり、8000円だとすると、人間の手で加工すれば通常はその倍以上の単価がかかってしまう。そんな訳で、 今やほとんどの木組みがプレカットで加工されることになってしまう・・・・・。
うちの若い大工が、どうしても手加工したいのだ。機械と同じ単価で良いから、どうしても自分たちの手で「刻み」たいのだ。 と言ってきた。嬉しい話ではあるが、お客様に迷惑をかけるわけにもいかない。「えー、あのぉー、機械加工から、手加工に変えたので、 単価を少し上げて頂いてぇ・・・・」などと、言える訳もなく、どうしようかと、少し悩んでもみたのだが、まぁ、調度、 大工の時間的な余裕もあったので、「刻み」をすることにした。
いわゆる、70歳をすぎた棟梁に指導をしてもらって・・・と言うと、いやいや、 親父に教えてもらうは・・・どうも・・・。自分たちでやりたいのだぁ・・・・・。というわけで、先日から「刻み」が始まった。 プレカットの時はコンピュータで書く加工図を刻みの時は「図板」とか「看板板」 とか呼び慣わされている板の上に墨で、柱の位置や梁の大きさを書く。それを見ながら木材に墨で印を付ける。いわゆる、 番付けとよばれていて、南東の角の柱に「いの一番」と呼ばれる墨が書かれるたりするのだ。
木に鑿(のみ)を使って「ほぞ穴」と呼ばれる穴を掘る。その時の「音」が素敵だなぁ・・・。実に、リズミカルで美しい。 「トントントントン」と響く。そうだなぁ、「音」というよりは、「響き」が素敵なのだ。1階の加工場の上が事務所になっている。 事務所で仕事をしている時に聞く、久しぶりの「響き」だった。考えてみれば、小さい頃からそんな音を聞いて育ってきたのだなぁ・・・・と、 ちょっと、昔を振り返ってみる・・・。金槌で鑿の頭を叩く、その鑿の先が木を「刻む」時に、奏でる響きが「トントントントン」 と空気の中に漂い広がっていく・・・・そんな感じがすごく心地よいと感じるのだなぁ・・・。のこぎりで木を切る「ゴシゴシゴシ」 という音も素敵なのだが、今や聞こえてくるのは「ぎょわーーん」という、電動鋸(のこ)が金切り声をあげて叫ぶ音だった。それにしても、 「いの一番」という言葉の響きもええもんだなぁ・・・・・とおもう。
投稿者 木村貴一 : 2006年04月16日 20:21 « よーい、どん | メイン | hanami2006 »