2004年05月17日

ゴールデンウィーク有田への旅(その2)

有田の泉山駐車場にハイエースのキャンピングカーを泊めて一夜を明かした。前日の寝不足と疲れのせいもあり熟睡した。朝6時頃、 駐車場の管理人の車をトントンと叩く音で目が覚めた。夜中に到着して駐車代金を払っていなかったので、催促に来たらしかった。 流石に夜中には2~3台ほどしか車がなかったのだが、辺りを見てみると沢山の車で埋め尽くされていた。

生憎の小雨がパラパラとする天気だった。40リットルのリュックを私と妻のそれぞれが担いで、軍手なども忍ばせ、 雨具の用意を携えて歩き始めることにした。朝も早いこともあり、まだ店は準備中だった。有田陶器祭りの案内所で地図をもらい、 ついでにトンバイ塀の通りはどこかと訪ねると、道を教えてくれたついでに「朝ご飯がまだなら、 トンバイ塀の裏通りを歩いていくと商工会議所に着くので、そこなら朝ご飯食べられますよ。」と親切に教えてくれた。 朝の散歩もかねて裏通りをぶらつきながら朝食を食べに行こうということになった。

裏通りは小川も流れる静かな通りだった。ブラブラ歩きながら有田は山あいにある町なんだなぁとあらためて思った。 細く曲がりくねった道とトンバイ塀。道沿いに並ぶ民家と陶器工場。小川のせせらぎ。町の背後にある山。 登り窯の不要になったレンガや窯道具を使って造られたトンバイ塀の独特の質感。こんな雰囲気と質感の壁を住宅建築で使えたらいいのになぁ・・ ・・と。先日、本屋で手にしたルイスカーンの住宅の中にある石造りの暖炉の壁。イサムノグチの庭園美術館の塀。岡山にある閑谷学校の石塀。 そんなのをフラッシュバックさせながら歩いた。

裏通りから路地を覗くと表通りの店先に陶器を並べはじめている様子が伺えた。そろそろ町が動き出してきたとい雰囲気だった。 その様子につられてか、眠たそうにして歩いていた奥方が、突如として活動的になり、裏通りから見ても何となく雰囲気のある店構えの「つじ信」 というお店に路地裏から飛び込んでいった。

一番最初にゲットした陶器はその店で目に付いた60センチほども長さのある船型の真っ白な器であった。 これをかわきりに沢山の陶器を買うことになってしまった。 帰りがけにはそれぞれの40リットルのリュックが満杯になり両手には袋と箱を携えていた。帰り道、 登山の時よりも重たい荷物を担いで歩いているお互いの姿を笑い合いながら、何でカートを持ってこなかったのかと、お互いのせいにして、 ようやく駐車場にたどり着いたのだった。

今回の陶器市では「白」の器を探そうということになった。絵柄があってもごく控えめな絵柄。そういえば巷では、「白」 が流行っているのかもしれない。車にしてもホワイトエディションなんてあり、家電製品もホワイトで統一されたシリーズがある。 建築でも感じの良い白い部屋や白い建物も多い。

そうそう、話は戻って、駐車場に紅白の幕を張った商工会議所の食事スペースで手作りのおにぎりとおでんとうどんの朝食をとり、 食堂の人達の明るく元気な声に送り出されて、買い物モードへと突入していった。ふったりやんだりの小雨にもかかわらず人出は多い。 何でもこの日は18万人だったそうだ。

人気のある深川製磁や香蘭社は人でごった返していた。建物や内装の雰囲気もいいので、人が多くても案外、居心地は良かったりする。 賑やかな店が立ち並ぶ通りの中で静寂な雰囲気の「辻絵具店」という店が気になって吸い込まれるように入った。独特の「赤」 を使った茶器が印象的だった。暫く眺めていると、ご主人らしき人が話しかけてきた。恐ろしく澄んだ目をした人だった。 職人気質のかたまりのような風貌と目。大工の中でも腕だけでなく人格にもたけた棟梁が持つような身のこなしと雰囲気が漂っていた。「赤」 の絵の具に関する製造やそれにまつわるエピソードを聞かせていただいた。今回の旅行での最も印象深い人との出会いであった。 辻昇楽さんという息子さんが制作した湯飲みがあった。深川製磁にある上品で繊細なタッチと色づかいの有田焼とはまた違う、 自由で太いタッチの赤絵の湯飲みだった。その店を出た後もその赤の絵の具の話が気になって仕方がなかった。 一通り陶器市を見終わった帰りがけにもう一度その店に立ち寄りその湯飲みを買った。それが、今回の陶器市での一番高い買い物でもあった。 家に帰ってから、手に入れた陶器を全部並べてみた。受験を控えて家で留守番をしていた長男に、ひとつだけ好きなものをあげるから選んだら・・ ・と言うと、直ぐにその赤絵の湯飲みを指さした。それはちょっと・・・・・。

私たち夫婦にとっては楽しかった陶器市なのだが、一緒に連れてこられた小学校2年生の息子にとっては、どんな印象を残したのだろうか?。 最初の1時間を過ぎたあたりからダダをこねだした。「あーしんどい。」「もーいやや。」「もう絶対行かへんでぇ。」その度に、 小さなおもちゃを買い与えたり、ラムネを買ったり、アイスクリームを買ったり、ポテト、かき氷・あ~・・・・ その辺で見つけた子供の喜びそうでチープなものは何でも買い与え、なだめすかした。それでも、 香蘭社では気に入ったデザインのお茶碗をちゃっかりと自分で選び、今では毎日の食事に使っていたりするのだ。かれこれ6時間ほど経過した頃、 息子は「もぉー、絶対、温泉に行く!」と強くアピールした。そうだ。荷物も肩にくい込んで痛い。そろそ引っ返して、ゆっくりと休みたい。 私も温泉につかりたい。

山を歩いている時は「なんでこんなしんどいことを・・・」といつもブツクサ言う奥方は町歩きではなぜか軽快である。 まだまだ陶器市に未練があるらしい。そういえば、7年ほど前、屋久島で7時間ほどトロッコ道を歩いて縄文杉を見に行って以来、 山歩きは引退すると宣言した。ところが町歩きは7時間歩いても一向に疲れないらしい。ちょっと口惜しそうだったのだが、 流石に荷物が肩にくい込んで、畑仕事をして荷物を背負って家路にかえるおばあさんのような歩き方になっていた。荷物の重さには弱いらしい。 ようやく、3人の意見がまとまり駐車場に向かうことになった。それでも、気になる店に寄りながら帰るものだから、息子は「約束が違う、 まっすぐ車に帰ると言ったやろ!」と・・・・・・。

今回の陶器市は上有田駅から有田駅まで歩いて、帰りは電車で戻ろうと計画していたのだ。しかし有田駅まではたどり着けず、 市役所まで歩いて駐車場に引き返すということで、私たちの陶器市は終わった。有田陶器市の何が楽しいのか良くわからないのだが、兎に角、 不思議に何だか楽しかったのだ。

有田から30分ほどのところにある武雄温泉に行くことになった。ゆっくりと、長い時間、温泉につかりながら次の予定を考えた。息子は、 旅行に来て、まだ、全然遊んでいないと言う。そうだ。子供にとって遊ぶと言うことは自然の中で動き回る事なのだ。 私も山々や木々に囲まれてゆったりと時間を過ごしたい。やっぱりキャンプだなぁ。それじゃぁ、阿蘇までへ行こう。ということで、 明日も雨模様なのだが、阿蘇の大自然に包まれて過ごすことになった。 (おわり)

投稿者 木村貴一 : 2004年05月17日 00:58 « 拉致被害者家族と泥棒 | メイン | ゴールデンウィーク有田への旅(その1) »


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