2005年07月10日

西瓜

九州に日帰りで杉材を見に行くことになった。お客様の実家の親戚が製材所をやっているので、出来れば、そこの木を使いたい。 という訳で熊本空港からレンタカーを借りて九州自動車道に乗り、 菊水インターで降りて山鹿市に向かう国道沿いにある米川製材さんという所にお邪魔した。米川さんは「綾杉」という地元の杉の良さを、 「日本で一番だと思っちょるけん・・・。」っと、屈託なく、明るく、強く話した。吉野の坂口製材でもそうだったけれど、 地元の杉をこよなく愛して、丹誠込めて製材する。そんな姿に好感を抱くなぁ・・・・・・。 

そのついでに、お客様の山鹿市にあるご実家にお邪魔した。馬刺しを食べさせていただいた。甘い。あまりにも美味しかったので、 帰りがけに、その地元のお肉屋さんで社員のお土産に買って帰った。その肉屋さん曰く、競走馬は使っておりません。地元熊本産です。 馬刺しの甘みは脂身ではなくて新鮮な赤身が甘さの・・・・と。木材にしても、馬にしても、後で話す西瓜にしても、 それはそれなりのこだわりと品質への追求があるのだな・・・と、あらためて思った。

田舎の広々とした縁側のある二間続きの座敷に、ノンビリ座り、馬刺しを食しながら、なぜか、西瓜の話になった。 お客様のお父様は西瓜を手でたたいて選り分ける仕事をしていたという話だ。 目の前に待ってこられた大きな西瓜を手のひらで叩きながら音を聞き分けた。「う~ん。カンカンという音がしちょる。ええ西瓜じゃが、 まだちょっと若いなぁ。」と言いながら西瓜のお尻を見る。「ここが出てたらアカン。へっこんでるのがええ。」「まっすぐ立ちよるか」 と置いてみて、立ち姿を眺める・・・・。手で叩く位置はこの辺りで・・・と。コンコンという音ではだめで、 カンカンという音がしないといけないらしい。ほー、と感心しながら音を聞くが、私にはカンカンとコンコンの違いは分からないのだ。 でも何だかカンカンという音にに聞こえてきたような気になったりするのだから、達人のオーラとは不思議なものなんだなぁ。

初めて知ったのだが、その地方の「植木の西瓜」というのは有名な西瓜なのだそうだ。。 国道沿いの西瓜屋さんで大きな西瓜をお土産に戴く。えー、飛行機やのに、手荷物で・・・・。あまりにも重たく、また、 そのまま持てばどこかにぶてけてしまいそうなので、段ボールの箱に入れてもらった。それでも上蓋はなかった。 熊本空港から伊丹空港へのANAの便の座席は40Gでかなり後ろの方だった。鞄を肩に掛け、 狭い機内の通路では西瓜を片手で持ち歩けないので両手で抱えるようにして持った。先日のテレビで見た、 貴乃花親方が遺骨を抱えているような、そんな姿にも思えてきて、自分自身の姿に笑いそうになった。 スチュワーデスが前にいるお客様の目を見ながら笑みをたたえていた。私にも同じように私の目を見て素敵な笑顔を振りまいてくれた。 が、ほんの一瞬、何を持っておられるの?、みたいな、ちらっと箱に目をやり、遺骨のような西瓜だと知った瞬間、 不思議さと笑いをかみ殺し、そして後続のお客様への挨拶と笑みをはじめたのだった。

前を歩いている乗客の方が手荷物を上の棚に収める間を待つ時間は、なお一層その西瓜が重く思えた。ようやく、 席までたどり着いた。 座席の下に置こうと思った。鞄を上の棚に上げようと考えたが、フライト中に何か見たいと思うかもしれないなぁ・ ・・と。そこで、 西瓜を上の棚に上げた。そして鞄を足下に置いたのだった。暫くしてスチュワーデスの方が棚の点検にきた。 棚を見ながら 「西瓜をお持ちのお客様は・・・」と晴れやかな声で訪ねた。私はちょっと照れくさく感じながら「ハイ」と答えた。 「上に置いておかれるとゴロンと転がって割れるおそれがございます。・・・」なるほど・・・。というわけで、 棚から降ろそうとするのだが、 重くて持ち上げられない様子だった。 私は席から立ってスッチーの替わりに棚から西瓜を降ろし、足下に置いた。すると 「本日は天候不良もあり足下は危のうございます。・・・・・」 確かに。 この熊本から伊丹への最終便は天候不良で往復する前の飛行機が着陸できずに空港周辺を旋回しており、危うく、欠航になる可能性があったのだ。 着陸の知らせがあった時は、待合いロビーでは拍手が起こったぐらいだった。じゃぁ、 西瓜はどうすれば・・・・。偶然、 私の隣の通路側の座席が空いていた。「ここにシートベルトをおかけして・・・。」 えー、ほんと。 という事で、 箱の西瓜は私の隣の席に座り、シートベルトをかけられることになった。 しかも箱だけではなく西瓜をくくっている紐にまで頑丈にシートベルトがかけられたのだった。


いくら有名な植木の西瓜といえども、飛行機の座席に座り、 シートベルトをかけられた西瓜はそうないだろうなぁ。記念撮影を撮ることにした。 本来なら座席から立ち、 スチュワーデスさんも交えて記念撮影。といきたかたのだけれど、そんな勇気を持ち合わせていなかったので、 離陸前にこそっと撮影をした。伊丹に到着してからも、機内の通路を、さも、大切なものを抱えるように持つ、 私の姿に目をやり、 中身をチラッとのぞき見して、頭より大きな西瓜を発見し、そして笑いをこらえるスチュワーデスさんのその姿を背後で感じながら、 空港に降り立った。同じように西瓜を抱え、 そのうえ、タマネギやシシトウなどの入ったビニール袋を手に持つ、同行したお客様の姿が、 まるで八百屋に買い出しに行った帰りがけの姿のようだなぁ。と空港でのお互いの姿を見て、心底、笑いあった。

投稿者 木村貴一 : 2005年07月10日 13:00 « ウインク | メイン | ゴッホ展とゴールデンウィーク »


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