2005年11月06日
昼休みのちょっとした旅
監理技術者の講習会が先日あった。 5年に一度の講習を受けて免許を更新する。その5年目の講習会がミナミ(大阪・難波)の日建学院難波校であった。なんでも、 衛星中継によりテレビ画面を見て、全国一斉の講習会をするらしい。確か、以前は広い会場で「生身」の人が演壇に立っていたはずだ。「生身」 かどうかが「授業」というものの大切な要素のひとつになる時代なんだなぁと考えながら、小さな教室に画面が3台ほど置いてあり、 それを見て講義を受けた。テレビ画面はこちらの「反応」や「理解力」など関係なしに進んでいく。時折、睡魔が襲う。周期的にやってくるのだ。 「たまには、ジョークのひとつでも言ってよね。」っと画面に向かって語りかけたくなる・・・・・・。
昼休みになった。どこかで食事をしようと、御堂筋に面したビルのエレベータを下りる。道頓堀のすぐ前あたりにそのビルはあった。 スポーツタカハシのビルの前の信号を道頓堀側に渡る。そういえば、学生時代はよく、スポーツタカハシに行ったなぁ・・・。 綺麗なビルになる前の「ごじゃごじゃ」した昔の店舗の方が魅力的な感じがしたなぁと思う。まぁ、 そのあたりのごじゃごじゃ感を上手く演出しているのが、ドンキホーテなのだろう。「はり重」の看板が目に飛び込んできた。そうだ、近いし、 久しぶりに、はり重のカレーでも食べようかなと思った。 昼時だったので、相変わらず混んでいた。「会社」というものに関わるようになってから「昔ながらで、相変わらす繁盛しているという店」 って凄いなぁと思えるようになった。若い時には全く感じなかった事を年を重ねるにつれて同じ店から新たな印象を受け取ったりするのだなぁ・・ ・。テーブルに出されたカレーを見て、そうそう、独特の黄色っぽい色合いのカレーだったなぁと再認識した。 昔ながらのカレーの味で美味しかった。
カレーを食べるとコーヒーが飲みたくなる。なぜなんだろう・・・・。道頓堀を歩くと修学旅行生でいっぱいだった。 平日の昼間のこんな時間帯にこの界隈を歩くことなどめったにない。そうか、いま時は、修学旅行に、こういう所に来るのだなぁ・・・・。 私が高校生の時の修学旅行は九州だったなぁ・・・と、ふっとその時の光景がよぎった。この近くには、昔は、 バンビというジャズが流れるレトロな喫茶店がありJBLというメーカーのスピーカーであるパラゴンやオリンパスが置いてあり、 憧れだった。そういやぁ、同じような事、前にも書いたっけ。
それに村野藤吾氏による戎橋プランタンがあった。 心斎橋にあったプランタンに対して、通称「白プラ」と私たちは呼んでいた。そういえば心斎橋のプランタンで受けた空間的印象は私の体の一部に残っていると思った。 建築家が創造する「空間」を体験できる素敵な喫茶店だった。モンドリアン風のファサード。鉄とガラスとタイルの組み合わせ。 吹き抜けと螺旋階段の気持ちよさ。天井の低い2階の落ち着いた感覚。木と何よりも籐という素材の魅力的な使い方。 心斎橋のプランタンの気持ちの良い「暗さ」に対して戎橋のプランタンは「白」かった。当時、学生だった私は、 デートや待ち合わせに使うのは圧倒的に「白プラ」だった。「白プラ」も同じように身体的な空間体験として私の記憶に残る事になる。 入り口の吹き抜けを通して、メゾネット的な空間構成で上と下とに分かれる室。 メゾネットという形式によって生まれる空間の格好良さが体験ができる場所だったのだなぁ・・・・と、今にして、思う。 なによりも2階だったか3階だったか記憶が定かでないが、天井が素敵だった。低い洞窟のような雰囲気のクリーム色(白い) の天井に穴がたくさん開いていて、照明の光が漏れていた。未だに、頭上で受けたその時の印象が身体的な感覚として残る。 他の村野建築にはあまり馴染めないけれど、プランタンは私にとっては別格だったなぁ・・・。そして、それらの店はもうない。
少し歩いて、丸福珈琲店でコーヒーを飲む事にする。 ミナミに残る数少ないレトロな珈琲店だ。いかがわしいH系の店が並ぶ通りとレトロな珈琲店の入り口の組み合わせが、 いつもながら格別な印象を与えてくれるのだった。ゆっくりトイレにも行きたかったので、席についてすぐトイレに向かった。少し長めの「用事」 を済ませた後、席に着こうとすると、私が席に戻るまで、珈琲を出さずに、待ってくれていたのに気づいた。そういう老舗の心遣いは「いいなぁ」 と思った。そんな気遣い、木村工務店は出来ているもだろうか?と自問自答などしながら、珈琲を飲んだ。昔ながらの角砂糖が二つ、 ひとり分の小さなフレッシュ入れと独特のフレッシュの味、私はそれら全てを入れる。柄の持ちにくいコーヒーカップに注がれた、 たっぷりの珈琲。丸福にしかない味だった。私たちも、木村工務店にしかない「味」が出せたらなぁ・・・・・と思った。
50分間のちょっとした昼休みの旅が終わった。カレーと珈琲の味を残像のように口に残しながら、一方通行の映像の講師を眺め、 午前中よりかなり頻繁に訪れる睡魔に惑わされ、時には呑み込まれながら、講習会が終わった。
投稿者 木村貴一 : 2005年11月06日 11:40 « 傘がない | メイン | シーンとしている。 »