2004年03月02日
残された座敷
昔ながらの座敷を残して新しい生活スペースと融合するリフォームを何軒か手がけている。
全てを真っ新な空間に造り替える作業も楽しいが、座敷と新しいスペースとを融合させる作業は、
リフォームならではの喜びと苦悩が味わえて格別に面白かったりする。
戦前戦後の大阪に数多くできた数寄屋風座敷は柱や長押、廻り縁、化粧垂木等々の部材が細い。「細い」ことが洒落ていて、粋であったりする。
大工も、繊細な木材を組み合わせながら「きっちり」と木組みすることに誇りを感じていたりもする。障子や襖、書院などに囲まれていて、
壁面積が少なくて、開放的でもある。
そんな座敷をリフォームする時の悩みは耐震性能である。出来るだけそのままの形で、手を加えずに残しておきたいのだが、
現在の耐震基準とは矛盾するところが多い。座敷のその姿を残しながら、どんな方法で補強するのが良いのか、
様々な試行錯誤を繰り返しているのが、現状でもある。時には構造設計を専門にしているプロに協力を依頼することも多い。
現在も大阪の北田辺で、木構造建築研究所の田原建築設計事務所 http://www4.kcn.ne.jp/~taharakn/の協力を得て昭和初期の住宅の座敷を残すべく耐震改修を主として、
作業を進めている。
座敷を残しながらのリフォームを手がけている時、何だか、庭を眺めるように、座敷を眺めている自分に気づく。
その昔の座敷と坪庭は一対になっており、内と外の良い関係性があった。座敷に座りながら庭を眺めて、自然や宇宙を、
ひいては自分自身の内面を眺めていたのだろうと思う。そして、今、リフォームで新しく造られた空間から、残された座敷、
柱や長押や建具を古い味わいを残しながらも綺麗に洗い、壁と畳は新しくなった座敷、会ったこともない大工さんが上質な材料を使って、
丹念に作り込んだ座敷、そんな残された座敷をまるで庭を眺めるように眺めていると、見失いがちになりそうな「何か」
を思い起こさせる役目を担っているように思えてくる。
投稿者 木村貴一 : 2004年03月02日 19:12 « コミュニケーションの技術 | メイン | 吉野の製材所 »