2010年11月21日

ニュートラル

「秋晴れ」、夏の青空とは、また違う、「青」。冷たさが同居したこの青空が、心地良い・・・・。誰と会話した時だったか、「パワースポットで、エネルギーをもらうというのは、ちょっと違って、それは、エネルギーがゼロの状態。ニュートラルの状態になるんやな」と、語った。そんなニュートラルな感覚が秋の青空かもしれない。

584064ba-2373-4d9e-9982-76cdf10c9c13昨日、木造3階建て住宅の上棟式があって、施主の小さな娘さんが、職人さんや木村工務店のスタッフに手づくりの折り紙を、照れながら、恥ずかしそうに、ひとつずつ配ってくれた。そういう、素朴で素直な感謝の表現が、とっても嬉しかった。「私」も小さい時は、そんな気持ちをもっていたのだろう・・・・。

最近の上棟式は、施主の仕事上の都合もあり、土曜日に催す事が多い。社内的には、昔のしきたりに従って、大安の日に上棟をし、式だけを土曜日にする。上棟の日は、大工や鳶や材木屋さんやレッカーなど、沢山の人間が関わり、棟を上げるのだが、式だけをする昨日の土曜日は、職人さん達の仕事の予定が重なって、大工の棟梁ササキくんとタバタくん、木村工務店の現場監督ツジモトくんと見積、工事監理を担当するトミマスくん、それに、材木屋さんの岡房商店のシンチャンと、土地の売買に関わった、日住サービスのナリタさん、そして、設計監理のタカヤマ建築事務所のタカヤマさんと、施主家族4名。あっそうそう、それに私。で、いつもより人数は、ちょい少なめだった。

この木造住宅の木材はプレカット加工という機械加工だったが、大工の予定が2週間ほど空いたので、加工の修行も兼ねて、手加工をする事にした。もちろん、機械と人間の、その賃金や労力を考えると、ばかげた行為なのだが、ダンシングアニマルとしての人間、工務店流に言えば、手仕事を楽しむ職人としての大工は、腕の上達やその達成感のために、そのばかげた事に挑んでくれた。

施主のご主人は、プラズマディスプレーを設計する技術者であり、上棟した建物が、当たり前のように、真っ直ぐに建つ事に、感激し、それが、宴席の話題にのぼる。大工にとっての技術の基本は、真っ直ぐに切る掘る削るであって・・・・。なんて云う、うんちくを宴席の「あて」にしながら、歓談が続いたのだけれど、加工された材木を運搬してくれる、岡房商店のシンチャンは、「毎回、加工された材木を眺めるけど、どんどん腕が上がってきてるな、仕口が、かなりキレてるわ」と続ける。それを横で聴く、ササキ大工のはにかみながらも嬉しそうな笑顔。

話はぐるぐる廻りながら、カンナの話から、砥石の話に及ぶ。大工のササキくんが、砥石には、それを使う職人の癖がついて、マイ砥石でないと、ダメなんです。という話に、施主のご主人が、興味深そうに聞き返す。砥石に癖がつくなんて、想像できないですけど、へぇー、それ、凄いですね・・・。その砥石幾らぐらいするのぉ! というツッコミも横から入る。2、3万円以上はするとおもいますわ。何年使えるのぉ! 十年ぐらい使うのぉ! いやぁ、それは無理ですわ。うゎー、それやったら大工さんって、けっこう道具にお金ねかかりますよね。そうなんです。道具代にお金が消えていきますわ。なんて云う、ツッコミがあちらこちらから飛び交いながら、会話の連鎖が続いていくのが、楽しい。

それにしても、大工の世界では、ノミやカンナや手ノコを使う事がめっきりへり、電動ドライバーや電ノコを使う場面が多い。それは「木組み」という作業が機械化された事が大きな要因であって、その事そのものは、コストダウンや、ある一定の品質が確保されて、喜ばしい事であるが、その反面、手仕事を通じて、人間としての「いき」を高めようとする大工の世界が、限りなく縮小しているのも事実。

断熱材や、ペア-硝子や、国産材に補助金が出るのもエエ事だけれど、プレカット加工より、手加工の方が、CO2排出量が少なくなりそうだし、それに伝統技術の継承や、雇用創出も兼ねて、大工の手加工に、政府から補助金を出しては、如何なものでしょうか・・・と、ふと、想った。いやぁ、お上からの補助金なんて、無かっても、ワシら大工は、頑張るでぇ、というのが、大工の心意気かもしれないが、それにしても、現実は、かなり厳しい・・・。

ある時間帯、不動産業の日住サービスのナリタさんが、数学科出身で、それも東京R大学であるらしい・・・という話題。数学者が、なぜか今は、不動産の営業をしているという話で、盛り上がる。当然のごとく、なんで数学科が不動産してるのぉ!というツッコミが、あちらこちから巻き起こり、微分や積分や行列や統計などのコトバが飛び交うと、大工のタバタくんは、笑いながら、オレ、それぜんぜん解らんへん世界やわ。大工は単純な算数の世界やから・・・と、皆で笑いながら、四方山話が続くのだった。

「私」が現場監督をして、墨出しという作業をし、驚いた事のひとつが、X方向とY方向に出した「墨」が、直角であるかどうか、簡単に確かめるために、「3(サン)、4(シ)、5(ゴ)」で確かめるでぇ・・・と云われた事。X方向の寸法を300mmとって印を付け、Y方向に400mmとって印をつけ、メジャーの寸法が書いてある、ウチ側で、キッチリ計るでぇ・・・と云われながら、斜辺を計るために、メジャーの端を印を付けた位置に合わせて、もう片方の印をつけたその数値が500mmであれば直角だという按配。蛇足ながら、3の二乗+4の二乗=5の二乗という、ピタゴラスの定理を使うのだった。

大工さんは、曲尺を使い、規矩術といわれる算術を駆使して、木組みをするための墨を付け、寸法を割り出す。また、動作を伴っいながら、常に頭の中では計算しているのも、大工の特徴かもしれない。いづれにしても、大工もそれに現場監督も算数的能力がいる事は確かで、ほぼ日新聞だったかに、「数学ができるようになるのかどうかは、あたりまえのことをバカにせず、省略せずに、順番に書く練習ができるかどうか、にかかっています。」というのがあって、それは、大工や現場監督に当てはまる大切なコトバであるとおもう。

宴席のある時間、施主のご主人が、設計のタカヤマさんと現場監督のツジモトくんの会話を聴いているのが、楽しいです。と云う話題が出て、盛り上がった。設計者の意図を現場監督が汲み取って、図面化やコトバで、職人に伝えながら、建築を造っていくわけで、本来的には、現場監督が建築工事の「要」の存在でもある。現場監督は、設計者と職人の間に入って、インターフェースの役目をし、通訳の役目をする。設計者の言語、職人の言語、それに施主の言語、その上、会社の意向という言語も理解して、翻訳し通訳する万能な人でもあり、カッコエエ職業なのだが、いまのところ、かなり人気薄。

現場監督と設計者とのコトバのやりとりから、建築工事という、ものづくりのパッションが生まれ、それが、職人を動かし、エエ建築を造り上げていくように思えるのだが・・・・。

施主が現場に鍋を持ち込んでくれて、おでん、を食べた。それをマヨネーズを付けて食べるという話題で、また盛り上がる。それは、まるで、秘密のケンミンショーのような出来事であって、施主の奥さんは、愛媛県出身で、愛媛ではマヨネーズを付けるらしい。大阪では、そんな話を聞いた事はなく、それじゃぁ、という事で、全員で、おでんにマヨネーズを付ける事にした。これが、「意外といけるやん」というやつ。それが、豆腐には、ショウガ、いや、からし、いや、数学科は、バジルに、えっーと、忘れたけれど、イタリアンで食べるらしい・・。まぁ、そんなたわいもない会話が続いて、それがオモロイ。

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上棟式というのは、木組みという最高に美しい、木の下で催される宴であり、ある種のパワースポットだとおもう。大工にとっては、最高の晴れ舞台であって、ある意味では最高潮の時なのかもしれない。それを、式と祝宴で、施主も、職人も、現場監督も、設計者も、感謝と共に、心をニュートラルな状態に戻して、また、心新たにし、完成に向けて頑張る機会なのだろう・・・・。

若き大工の棟梁ササキくんは、祝宴の一本締めをする前の一言をこう締めくくった。「これから完成に向けて、丁寧な気持ちで、造っていきたいとおもいます。」「よぉー、パン」おぉー、なかなか、カッコエエではないか・・・・。 施主に感謝です。

投稿者 木村貴一 : 2010年11月21日 20:47 « 残像 | メイン | 白朝行。 »


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