2006年10月01日
バカ棒
「バカ棒っていったい何ですかぁ。」と、弊社のH嬢が驚いた口調で聞いてきた。H嬢と書くと、 何ともいかがわしい雰囲気がするので、ひろ嬢と呼んだほうが、ええのかもしれない。社内で最も高い最終学歴で、いわゆる、 院卒というやつだ。
社内に無造作に立てかけられていた「棒きれ」を指さして 、「このバカ棒が」と教えていたのが、 当社のF氏で社内で最も高年齢の大ベテランだ。そうそう、正確には、会長と呼んでいる、私の父が社内にいて、年齢は72だったのか・・・。 だいたい、そのあたりの年齢になると、もう、親の年も正確にわからなくなり、どうだってよくなってくるものだ・・・・ (*^_^*)
F氏の年齢も正確に思い出せない。確か、68、いやぁ、69か。兎に角、けっこうな、年齢なのだが、社内で一番大きな声でしゃべって、 一番活気がある。定年退職をしたのだが、技術力が目に見えて、低下していくような雰囲気だったので、昨年からまた、指導にきてもらっている。 戦後の建築業界の技術の発展と共に生きてきたような人だ。ちなみにF氏は、私が産まれる1年ほど前に木村工務店に入社して、私が、 赤ん坊の頃にぐだぐだと寝ぞろをいっていると、その車の助手席に乗せて、現場に連れて行き、寝かし付けてくれていたらしい・・・・。当時は、 のんびりと大らかな世の中で、古き良き時代だったのかもしれないなぁ・・・・・。
会社の平均年齢は30歳後半で、圧倒的に20代と30代前半の社員の数が多い。建築業界が成熟する前に入社し、
その業界の成熟と共に成長してきたF氏と、もう既に、それなりに成熟した建築業界に、
いきなり新人として現場に放り込まれる今の現場監督とのギャップは大きい。現場監督という職業は、確かに、技能とか熟練とか、
訓練して身に付けた技能とかいって、 最近よく使われる言葉の「スキル」がいる職業なのだが、それと共に「若い」
というエネルギーも大変必要とする職業だと思う。
成熟した業界にいきなり放り込まれる「若い」現場監督のスキルのなさと精神的苦痛のギャップを埋めるべく、F氏が奮闘してくれている。
現場監督の職業は現実の建物を完成させるために、
施主と設計士と職人と建築会社との間を円滑なコミュニケーションをとれるように繋ぐ役目している。それぞれの立場の「言語」を理解して
「翻訳」して「編集」して、それぞれに、そのニュアンスを正確に伝える役目だともいえる。「バカではなれないが、
バカにならないとやっていけない」そんな部分もあるかもしれない・・・・・・。
「バカ棒」という言葉に面白可笑しく思った、ひろ嬢が建築用語辞典を調べると、確かに
「バカ棒」という言葉が載っていた。私は、通称として、そう呼ばれているだけだと思っていたので、用語として、
ちゃんと掲載されてある事が、不思議な感覚だった。インターネットで調べると「バカ棒」はこんな事で、
インターネット上の映像はこんな感じだった。
現場監督をやり始めた最初は、バカ棒を持つ役になって、レベルを覗いている相方の指示に従って、目印を付けていく。そのうち、
レベルを覗く役目になって、相方にバカ棒を持たせて、目印を付けてもらう。相方がどんな人間でも、バカ棒を使えば、誰でも、
正確な目印を付ける事が出来るというわけだ。現場ごとに取り決めをする、基礎や躯対のややこしい高さの関係性を、
現場作業をする相方が全く理解できていなくても、バカ棒を使えば、正確な目印が付けられるという案配だ。
誰にでもある「バカの壁」を「バカ棒」を使って、
「行動」として、とりあえず乗り越えて、後に、「知識」を得て解釈して、それを「理解」するようにする・・・・。というのが、
現場監督の日常と成長かもしれない・・・・。現場では、職人さんや現場監督が大きな声で「バカ棒」と発するその言葉の中に、
ある種の愛情がこもっていると思うなぁ・・・・・・。
そうそう、全く現場経験がなかった、ひろ嬢は、現場で遭遇した、
写真の青いプラチックを手にとって、これ、何ですかぁ・・・と、 現場監督に聞いたらしい・・・。勿論、
男性の現場監督が慌てて、手に持つのを制止しようとしたが間に合わなかったとか・・・・・。
確かに女性が使うことはないよなぁ・・・・・。
建築界にはまだまだ、独特の用語と道具としきたりが、 当たり前のように生息しているようだなぁ・・・・・・。
投稿者 木村貴一 : 2006年10月01日 13:11 « てったいさん | メイン | 工務店 »