2009年11月08日

現場監督

川渡りの問題」というのがあって、それは紀元前からある、話だという。「狼と羊とキャベツを持った男が、川を渡ろうとしていて・・・・・」という話。その話が、何となく好きで、おそらく、その話を知ったのは、大学生の頃だったと思う。

卒業をして、現場監督という職業をしてみて、気が付いたのは、現場監督の職業は、「その男」の仕事に似ているなぁと思った。男がいないと、狼は羊を食べ、羊はキャベツを食べ、船にはどれかひとつしか積めず、「無事」に向こう岸に渡るのに、どんな工程を考えたらよいのか・・・。例えばそれを、狼さんが塗装屋さんで、羊さんが大工さんで、キャベツさんが左官屋さんだとすれば・・・・。

それぞれが、同時に現場に入ると、良い仕事が出来ず、邪魔し合うので、まずは、羊さんに現場に入ってもらい、それから、狼さんを連れて行き、その時に、一端、羊さんを、連れ帰り、現場から抜けてもらう。っていうのが、ミソなんだろうが、今度は、キャベツさんを現場に連れて行き、最後にもう一度、羊さんと一緒に現場に入る、というのか川を渡る。そんな訳で、職人さんどうしが、ぶつかり合う事なく、「無事」に家が完成する・・。

工程を何とか3回で、収めようとするのではなく、ある意味では、無駄で、面倒くさい事だけれど、羊さんを一端、連れて帰り、また連れていくという、工夫をする事で、都合4回にはなるけれど、5回でも6回でもなく、「無事」に、もの事が運ぶのだ。と、建築の現場の工程に携わってみて、はじめて実感した。

現場監督は、何度も川を往復し、しかも、皆が「無事」に、いくように、余分な1回を、ハッキリとした意識と工夫を持ってする事で、それは、時として、羊さんを説得し、理解してもらう事にもなるのだろうが、そういう面倒くさい事をしながら、そういうエエ工程を考えて、そういう何度も何度も往復をするのが、現場監督の仕事であって、何よりも「無事」に事が運んだ事が、最大の喜びとなる職業なんだ・・・・とおもう。

ゲツク、月曜日9時のドラマあたりで、キムタクに、建築の現場監督の役柄をやって欲しいものだなぁ・・・・・。建築現場における、現場監督という職業が、外から見ると、何だか良くわからない仕事だけれど、もう少し認知されるようになり、それに、現場監督も、誰よりも豊富な知識と経験と誇りを持って、現場を切り盛りして欲しいものだなぁ・・・・・・。と、なぜか、そんなふうにおもった。

何で、今日の朝、こんな事が、突然、頭の中に、浮かんだのかといえば・・・・・。

そうそう、先週の日曜日の朝、起きると、寒かったので、テレビを付けて、天気予報を見ようとすると、「Aホーム」というハウスメーカーの社長がテレビに出ていて、不況化でも業績を伸ばして・・・・と、インタビューを受けていた。その番組の中で、徹底的に建築現場の無駄を省く研究をしている・・・というのが主な内容で、それなりに興味深かった。

考えて見れば、工務店では、そんな、無駄の排除や、コストダウンや、工程などの様々な工夫を、現場監督が、「喜び」として、「好き」として、やっていたのだ・・・・。時代の流れとともに、いつしか、そんな、プロフェッショナルな現場監督が少なくなってきたのかも知れない。と、テレビを見ながら、頭の思考が、クルクルと回り始めた時に、唐突にも「川渡りの問題」を思い出したのだった。

「川渡りの問題」のような個としての「男」の存在と必要性とその努力が、忘れさられ、そういう工夫は、企業化し、システム化していっているのだろう・・・・・・か。まぁ、でも、多様で、個性的な、オンリーワン的な家々が造られるためには、もちろん設計が大切だけれど、やっぱり、これからは、しっかりした現場監督の存在が不可欠なんだ・・・・・と、そのテレビを見ながら、おもった。

今日の朝は、穏やかな気候で、たいへん過ごしやすい・・・・。確か、先週の日曜日は、寒かったような・・・・、朝、起きて、テレビを付け・・・・、そうそう、「川渡りの問題」・・・・。

投稿者 木村貴一 : 2009年11月08日 21:30 « コードレス | メイン | ものづくりの現場 »


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