「窓越し」

夏休み休暇、前々日に、泉佐野で、新築平屋建て住宅の写真撮影があって、ちょっと見学にいく。38度を超す猛暑日のなか、床下には、床下空調機が設置されていて、夏は床がヒンヤリし、サーキュレーターとのコンビネーションで、とっても快適だった。冬の床下暖房機設置の空間体験はあるが、夏の生活している場での床下空調機の体験は初めて。玄関土間から入ると、いきなりオープンキッチンがあることが特徴的な住宅なのだけれど、リビングダイニングと寝室で、L字型に囲われた庭があり、木製建具を使って、囲い込んだオープンスペースの、その窓越しの眺めも特徴的。

夏休み休暇の旅、隠岐の島で、夜光虫を船から見るイベントに参加した。出航して、ホテルの部屋の明かりが、黄色く光って、波の上に、その光がゆらゆらゆらいで幻想的な感じ。空には月明かりがあって、ルナティックな怪しげな光がUFOのように光って、この全体が、ひとつの照明器具のようにおもえた。それに、窓を、覗くっていうのが、なんとも如何わしい感じがするし、なんとなくエロティックな感じもして、船にゆらゆらゆられているゆらぎも加わって、独特の印象として記憶に残る夜だった。

ヒッチコックの「裏窓」という映画があって、数年に一度、視聴したくなる。というか、ヒッチコックの映画をたまに見たくなるのだけれど、その映画の候補のひとつに、裏窓がある。主人公が脚を骨折し歩けなくなって、中庭に囲われたアパートメントの一室の窓から、それぞれの窓を望遠鏡で覗き込み…..さまざまなドラマがうまれる。高校生の時に、淀川長治の日曜洋画劇場で視聴して、いや、ひょっとして記憶が違っているのかもしれないが、それ以来何度も視聴している…..。で、その船の中から、ホテルの窓を見て、裏窓のいちシーンが蘇って、私の脳裏には、その映像がゆらゆらゆらいでいた。

石見銀山にまったく興味はなかったが、島根県文化センターグラントワの建築を観てみたいという衝動が、前からあって、山陰を巡るついでに、絶対立ち寄る場所としてインプットしていた。出雲からグラントアのある益田市までの道中に、石見銀山があると知って、立ち寄ってみることにした。滞在時間を長く取れなかったので、銀山に行かず、古い街並だけを歩くことにしたら、そのなかに1軒、とってもおしゃれに改修した施設があって、服や雑貨、カリーなど、で、そこでパフェを食べる。その2階にギャラリースペースがあり、その窓から中庭をみると、オールドな窓のデザインから入る光の、石州瓦の「赤」と木々の「緑」が幻想的な感じだった。山陰を旅すると、家々の赤の石州瓦がとってもエエ雰囲気で、緑の山々とのマッチングもエエ感じ。この窓越しの光景は、山陰だけの「色合い」におもう。

石見銀山のなかの古民家を改修したパブリックスペースのなかに、水盤のある中庭があって、灼熱の太陽が照りつけるなか、井戸の水をくみ上げて、楽しんでいる、とっても涼しげの様子を、窓越しに眺める。石州瓦の赤い釉薬の瓦とブルーのタイルとの組み合わせは、島根県文化センターグラントワの赤い中庭があって、それを意識するが故に、これが存在するのだな、と想像してみた。

石見銀山という、その当時、お金があるというか、経済が発展した場所の、民家は、こんな山間なのに、とっても豊かな感じがした。それと、いまや、都会のあちこちで、インバウンドの方々に遭遇するが、島根での遭遇は、数えるほどだけだった。出雲大社も、インバウンドの方々には、そんなに知れ渡っていないのだろうし、いや、日本人にとっても、島根は、辺境の地のような気分だが、今回、「島根を旅する」っていう感覚が、とっても良かった。また、また、行きたい。

内藤廣さん設計による、益田市にある島根県文化センターグラントワの駐車場から、施設内に入っていくと、いままで体験したことのないような、艶めかしくて柔らかな「赤」の世界に引き込まれる。窓越しから、建築写真で眺めていた、石州瓦の赤い釉薬で囲まれた、水盤のある中庭を眺め、屋外空間にでて、うわっ、凄い!と感激した。灼熱の太陽のもと、汗流しながら、中庭をゆっくりと一周回って、それだけでも満足する建築空間体験だった。

窓越しの世界って、建築にとって、あらためて面白い世界だな…..とおもう。