森と木と製材所

春だ。2月なのにそんな日曜日。家にじっとしていられない、外に出たくなる陽気だったので、午前中自転車に乗って、昼から銭湯に行って、夜は家のアウトドア薪ストーブで肉を焼いてソトメシで過ごす。頭をまったく使いたくない、体を動かしたい気分の日曜日だった。こんなに春が迫ってくると、あっという間に2月が逃げていきそうだな。

今週木曜日。寒波到来のなか、久しぶりに吉野へ行くと屋根には雪が薄っすら残っていた。昔は大阪から吉野まで車で2時間以上かかっていたが、今や木村工務店から吉野の阪口製材所まで1時間15分ほどで行けるようになって、吉野材がより身近な存在になってきた。S邸新築工事の構造材で化粧になる梁を阪口製材所の吉野杉で取り揃えることになって、その材料の検品と木取りのためにお伺いする。お施主さんも現地で待ち合わせをした。木村工務店の若い設計者や現場監督も吉野未体験なので、私を含めた6人で見学を兼ねてお伺いすることになった。

木造のダイナミズムのひとつに、「森」の「木」が伐採されて製材所に運ばれ、「木」が製材されて「木材」という材料になり、その「木材」を「大工」が加工し、家を支える「構造材」として、建築の中に組み込まれ、家族の安全や居心地の良さを育む。そういう国産材の家が街並みを形成することで、お客さんの支払ったお金が、製材所に還元され、山師に還元され、木を育てることに、森を育てることに還元される。森を育てることが、美しい川を育て美しい海を育てることにもつながる。そういう「自然」と「人間」と「暮らし」のダイナミズムのような図式を15年ほど前に教わった。吉野の製材所に行く体験が、そういうダイナミズムを感じる機会になれば嬉しい。というのが今回の最大の目的であったようにおもう。

現実は、価格の問題で、国産材だけを使う機会がとっても少ないのが現状でもあるが、コロナ禍で家づくりの流れが一旦静止させられ、見直す機会がやってきた感もあり、いまこそ再び、若い人たちが、そういう国産材の家づくりが持つ、自然と人間と暮らしの良き関係性を目指しても良さそうにおもえた。

吉野の阪口製材見学のあと、すぐ近くの坂本林業さんに見学に行く。阪口さんはスギの構造材が得意で坂本さんはヒノキが得意な製材所だ。モダンなスギの家も魅力的だが、モダンなヒノキの家も魅力的だとおもう。お昼をまわり、吉野山に柿の葉寿司の昼食に行くと、ほとんどのお店が閉まっていた。テークアウトしか出来ず、それを買って、金峯山寺をサッと見学し、吉野川のほとりで皆で食べた。その後、坂本さんのご好意で、長谷川豪さん設計による吉野杉の家を見学した。写真で見る以上に素敵な空間だった。そういえば一階がスギによる空間で二階はヒノキによる空間だった。

 

 

こうなったらついでに、大阪に帰る前に、杉の床材を仕入れている吉野の丸岡木材さんにも立ち寄ることになった。MC機械も導入され、どんどん加工が多彩になってきた感じ。杉や桧という植林された木々が、山と川に囲まれた製材所で、どのようにして加工され、木材として家づくりの構造材や床材になっていくのか。その過程を見ると、何回見ても、なんだか嬉しい気分になる。暫く忘れていた感覚だと気づいた。「すでに起こった未来」なんていうコトバがあるが、家づくりもいま一度、いろいろなコトを見直していく時期なんだろう。