「空気感」
心斎橋筋商店街で木組みの店舗を施工中で、その店舗の構造設計を担当する下山さんの紹介で、構造材とその加工を紀州材を取り扱う山長商店さんに依頼する事になって、和歌山に訪問し、山と木材と大工さんに出会うことになった。
和歌山県田辺市にある山長商店本社から30分ほど車で移動した「山」に案内して頂き「主伐」といわれる伐採が終わったあとの「集材」の現場作業を見学する。谷間の両端の木と木の間に大規模なワイヤーが張ってあり、それはまるで巨大工場内の巨大なガータークレーンのような雰囲気であって、巨大リフトとして山の上で伐採された木材を吊って谷間に釣り降ろす豪快な作業を見守った。
その木材をプロセッサというガンダムのような巨大な機械が取り付いたキャタピラ車で、木を掴んで、枝払いと玉切りを一気に行う。木に生えている枝がバキバキバキと気分爽快に切り落とされる枝払い、4mと3mの定尺長さでギィーンギィーンと鋸の音とともに切り落とされる玉切りの作業にちょっとした興奮を味わった。
10年以上前に岐阜の山でハーベスタという機械で木を掴んで切り倒し枝払いと玉切りまで一気に行う作業を見学したが、和歌山の山は急峻なので、平地が少なく、機械で木を切り倒すことが出来ないという。それで、手作業で木を切り倒して山に倒れたままの木を谷ごとにワイヤーを張って集材する手法が使われているのだそうだ。山から木材を切り出し運搬する技術とコストは、集材と運搬のための道を切り開く技術とコストに依存していることが理解出来るのだった。
山のなかの平らな場所で谷を見下ろしお弁当を食べる。ここから望める山の全てが山長さんの森林だという。凄い規模だな。「スギ」と「ヒノキ」の木の違いのレクチャーを受ける。スギの木は谷沿いなど水分の多いところで土が深くまであるところに植え保水する。ヒノキは急な斜面などに植えるという。お弁当を食べたところから山を眺めると、谷沿いの水分が多そうでスギが植わっている場所は花粉が開花しているのか茶色く色づいているし、ヒノキが植わっている場所は急峻な斜面に緑色を発し、岩場のような一体には広葉樹がそのまま残っていた。伐採し植樹を繰り返すことによって、健全な山が維持管理され、活発な光合成によるCO2の吸収と固着が持続的に維持管理されるが、スギやヒノキの「木」が使われなくなると木が衰え山が衰退しCO2の吸収量も減少する。和歌山県の70%以上が森林でそのうちの60%が人工の植林だという。あらためて「国産材の木の家」を造っていきたいものだな。とおもえる山の見学だった。
そうそう、山長さんの植林された山を歩いて下る途中に、79歳になるという山師さんからさまざまな木のレクチャーをうけた。少しねじれた木の前で立ち止まり皆に語りかける。ねじれた木は製材し構造材になると、いつしか材料がねじれてくる。その木の種を採取し植樹するとそういうDNAが残ってねじれた木が増えてくるので、森林組合で良質のDNAを持った苗木を管理し販売し良質な森を維持管理することに努めているという。そんな現代的で科学的な話しに感心した。
一本の不思議な木の前で立ち止まり上を見上げて円形の枝の塊を眺めながら、山で出会う「カシャンボ」という妖怪の話が語られた。いたずら好きな山の精霊に山師の多くが出会っているという。あの円形の枝の塊を払うと山のたたりに会うかもしれない…..そんな話を聴きながら木漏れ日とともに山を下ると、気分がハイになるよね。
山長商店さんの本社に戻り、事務所の横に併設されてある工場で、山から集積され運搬された木が、木材として皮をはぎ乾燥し製材されて材木という木材製品にになる工程を見学する。いわゆる製材所が併設されてあるだけでなく、その横にはプレカット工場も併設されてあって、材木に「ホゾ」や「アリ」が機械加工され建て方を待つ構造材として山積みされてあった。山から製材を経てプレカット加工まで木が一貫生産され植樹をし山と森を育てる。そんな過程をひとつの会社で見学出来るのは素晴らしいコトだなとあらためておもう。
今回のメインテーマは、そのプレカット機械加工ではできない手加工をどのようにするか、その細部を大工さんと検討するために、意匠設計者と構造設計者と工務店と大工が顔を合わせ、リアルなミーティングをすることだった。木村工務店の大工は施工中の現場からオンライン参加になったが、それにしてもそれぞれの立場の人が一堂に会することによって生じてくる「空気感」のようなものによって細部が決まっていく。なんていう体験が面白いし楽しい。そんな週末の和歌山だった。