ツール・ド・フランス

日曜日の朝一番。蟬の甲高い叫び声のような大合唱が響き、子供たちがどたばたと廊下を駆け抜け、庭に置いたプールに飛び込んで、蟬以上の奇声が響く庭。えっっもう夏休みになったのかとおもう。子供達はとっても嬉しそうな笑顔だが、親たちは困惑気味の笑顔で、このコントラストこそが夏休みなんだなと、両方の気持ちが理解できる年頃になったワタシ。

金曜日。京都東山の古川町商店街で、堀賢太建築設計事務所さん設計で木村工務店で施工したギャラリーと事務所のオープニングがあって、商店街に面した建物前の小さな広場で関係者が集まって飲食を共にした。1階のギャラリーには、商店街から出た廃材を使って大工さんが製作したオブジェが展示されてあった。無類工務店という名前でアートと建築の仕事に携わりながら大工の仕事をしているという。アートを活かした建築と精神的豊かさを得られる空間作りを心がけています。と書かれてあって、京都という「場」ならではの若い大工さんの感性だった。

副業を良しとする大企業が増えてきた昨今。大谷の二刀流もテレビやネットで毎日のように話題になっているし、大工さんも大工仕事とアートという「稼ぐ」だけでない「心」のバランスをとりながら大工としてのより良いライフスタイルを模索しているのだろう。

そうそう今日で3週間に及んだツール・ド・フランスが終わろうとしている。グッとくる場面がいくつもあったとってもドラマチックな大会で、ステージ優勝したほとんどの若者が感極まって涙を流すインタビューを視聴すると、100年以上続くフランスの国技なんだとあらためておもう。ロードレースの世界でも、トップ争いをするヴィンゲゴー、ポガチャル、ワウトなど、平坦ステージ、山岳ステージ、タイムトライアルステージと専門職的でなくバランス良く全てをハイレベルでアグレッシブにこなし視聴者を魅了する若い世代の姿は、大谷的な若者の出現が、あちらこちらに同時代性として出現している現象なんだろう。

今回のツールは、誰かと一緒にあーだこーだと語りたくなる衝動にかられる大会だったが、それはそれとして、ワタシ、昔から、ツールへの憧れがひとつあって、それは、キャンピングカーで、フランス国内をキャンプしながらツールのステージを一緒に移動し、山岳ステージで、映像のような人の通路を作って激しく応援する一員になってみたいという楽しみ方。もちろん建築好きなので、フランスの田舎町の集落を巡って食事したいというのも半分。そんな憧れをますます強くさせる今大会だった。

2019年に名古屋のコスモホームさんの企画でヨーロッパ建築ツアーに参加したのはとっても楽しかった経験で、その時フランスで初めてコルビジェのサボア邸を見学できた。ツール・ド・フランスで持続的に放映される空撮によるフランスのまちの映像を眺め続けていると、三角屋根に縦長の窓が等間隔で繰り返される石造りの建物の集落がエエ雰囲気なのだが、それとともにワタシの脳裏ではパリ近郊のサボア邸で見たあの建築のフォルムがフラッシュバックする。ピロティと水平連続窓とフラットルーフの屋上庭園がある白いコンクリート建築。現代の日本人からすればフツウの住宅に見えるというのだけれど、1930年代のフランスで、いや今でも、コルビジェは革新的な建築家だったのだ。とそんな気分でフランスの空撮映像を楽しんでいる。

それはそうとツール・ド・フランスで日本人がステージ優勝する日はやってくるのだろうか。