空き家とまちの魅力

紫陽花の季節。梅雨入りになった今週。偶然にも「空き家」に関わることが重なった週だった。

その1 集合住宅の中に賃貸住宅を所有する知り合いの会社社長のオーナーが、今現在、空き部屋になっているその所有する住宅の上階の住戸から水漏れが発生し、その保険金が入ってきて、これを機会に改修して、新たに賃貸するかどうか迷っているというご相談だった。古い集合住宅で3DKという、数値的には広そうに感じるが、今の若い人のライフスタイルには到底受け入れがたい変則的な間取りで、ミニキッチンと並列の位置に冷蔵庫置き場がなく、洗濯機置き場もベランダで、最近の間取りに変更すると2DKか3Kとなる大きさの部屋だった。

コロナ禍やウクライナ問題で不透明で不確実で予測不能な世の中になって、そのうえかなりインフレになってしまった建築費の状況下。それなりのお金を投入し回収出来ることが確実かと問われると、現況の間取りとリフォーム費用と家賃収入を勘案すると自信を持ってお勧めできる状況でもなく、なによりも会社が所有するこういう案件は「投資」という視点が大きく、経済の見通しが立つまで、しばらくこのまま様子をみようか…..なんて雰囲気になる。こんな感じで「空き家」として残っている物件も多い。

その2 都市住宅を研究するある企業の研究所のメンバーの方が知り合いだったことで、「都市の縁辺部、(戦前)戦後スプロール市街地の、賃貸住宅オーナー(主に、二世・素人オーナー)の動向や興味を伺いたい」という「空き家カフェ」を運営している立ち位置で語ってほしいという依頼だった。夜のキタに出向く。といっても飲食が伴わない会合。そうそうフツウに人出が多いキタだった。

空き家カフェには賃貸住宅のオーナーの方も参加頂いているが、そういうオーナーのメンタリティーを賃貸したい方々、特に自分達でリフォームして住みたいとおもっている方々に知ってもらうことは大事なコトで。それと反対に、オーナーの方々に、最近の若い世代は、真新しいクロスでリフォームされた壁に、真新しいユニットバスや洗面台が付いている部屋より、古いままでも、自分たちでDIYできる可能性を含めて「私のライフスタイル」に合致するようにリフォームできる部屋もしくはできた部屋を望んでいて、そんな想いを若い人の生の言葉からを知って欲しい。そういう情報交換の場に、不動産関係や建築関係や行政の方々や大学教授などさまざまな立ち位置で、まちに興味のある人達がひとつのテーブルを囲んでコミニケーションをとることができる場に必要性があるかもしれず、その家やそのまちやその界隈の物語が語られ聞ける場が「空き家カフェ」なんだろう…..という話しをした。

その3 空き家になっている小さな文化住宅が近鉄沿線沿いの古い住宅地にあって、オーナーからその建物をなんとかできれば良いのにね。と2年ほど前からお話しを伺っていた。空き家カフェで、生野区にある大きな文化住宅の改修提案の話題が何度も議論されたが、面積が大きすぎて費用対効果を考えるとオーナーの投資への意向が強くないかぎり実施に踏み込めない状況が続いていた。

その時に参加頂いたある建築家の方と話をしているうちに、その小さな文化住宅を紹介することになって、そうすると昭和レトロでカワイイ文化住宅としての魅力がクローズアップされ、自分の事務所をそこで開設し、歩いて行ける距離に総合大学があって、学生が集まって寝泊まりもでき、私たちの文化を考慮した現代的な文化住宅、インキュベーションハウスとしてリノベーションしよう。学校のインターシップとして学生が参加できるプロジェクトとして進めてみよう。というそんな計画をオーナにプレゼンする日だった。

ちなみに建築関係の打ち合わせで、「インキュベーション」とか「アジェンダ」なんていうちょっと気取ったコトバが打ち合わせに登場するようになった昨今で、インキュベーション=起業や新事業の創出を支援し,その成長を促進させること。アジェンダ=これから話し合うために全体の流れ、要点をまとめたもの。結論の決まっていない相互の話合いの場で主に用いられる。ちなみにレジュメ=話される中身の概要。講演会など既に結論や内容が決まっている一方的な情報伝達の場で用いられることが多い。なんていうコトバらしい。なんかカッコエエコトしているような錯覚に陥るカタカナコトバでもある。

その4 今日の日曜日は毎月19日に開催している「空き家カフェ」の日だった。生野区というまちに興味がある方々12名の参加で、そのうちの2名の方は、開設している障害者施設を移転するための空き家をさがす男性と、学生も集まってミシン仕事ができる空き家を探す女性の初参加の方々だった。借家オーナー、不動産、ファイナンシャルプランナー、工務店、行政書士、行政の方、大学教授、まちの拠り所を開設するオーナー、生野区のまちに戻ってこられた方、生野区のまちに新たに住んで地域貢献をしたい方など、さまざまな立ち位置からの発言が語られ聞けるの面白い日曜日の昼下がりだった。

大阪市で生野区が製造業がもっとも多く、自営業者数や家族従業者数も多い、ものづくりのまちで、長屋や戸建て住宅が多く銭湯が最も多い区であり、空き家が最も多い区でもあるらしい。なので、ものづくりの音や匂いなどと住まいが共存できる関係性が周辺住民の合意であることが大切だったりして、「自営業的なものづくりによる良いモノ」と「銭湯のあるくらしに象徴される楽しい暮らし」と「コリアンタウンのような商店街に特徴がある多様な食文化」が、まちの魅力となって、持続可能な「エエまち」として存続できることが「空き家」をなくす最大のコトに繋がるのだろう…..なんて語られる空き家カフェだった。

空き家とまちの魅力を考える週になった。