「転写」なのだ。

雨がしとしと降る日曜日。コロナで中止していた、包丁研ぎワークショップを開催することになった。とっても久しぶりの「まちのえんがわ」ワークショップになって、3密を考え、2部制で開催するコトになったが、ま、それゆえに、ゆったりとした気分のワークショップだった。生野区在住の「研ぎ屋むらかみ」という超マニアックな研ぎ師村上さんが居て、「生野ものづくり百景」を担当する行政のタケダさんの紹介で、ムラカミさんと遭遇することになったが、世の中には、いろいろなコダワリをもった職人さんがいるのだと驚いた。

「砥石」という刃物を研ぐ石があって、大工の世界では、「刃物貸しても砥石は貸すな」といわれるぐらい、砥石が大切だと教えられた。砥石には、その大工特有の癖がつくのだ。なので、木村工務店の大工職人の研場(とぎば)では、大工の砥石に触れることはない。というか、触れるときは、とっても気を使う。4時間かけて、研ぎのレクチャーから、初歩的研ぎ方まで、みっちり教わるワークショップなのだが、なによりも、このムラカミさんのワークショップで、とっても気になったフレーズがあった。

「砥石の性能が、研ぐことによって、刃物に転写され、その刃物の性能が、刃物で食材を切ることによって、食材の味に、転写されるのだ」という。カッコエエコトバだ!

ただよくあるコトバの魔術師でなく、それぞれの研いだ刃先を電子顕微鏡を使ってパソコン画面で見て、科学的な解説をしてくれる。ワタシは、建築家の秋山東一さんの影響で、オピネルNO12を持ち込んだ。オピネルはNo7あたりがエエのだろうが、研ぐことを考えると、短いより長い方が易しいので、No12を購入した。もちろん、ムラカミさん超厳選の人造砥石も購入し、研ぎ方を学んだ。刃先の「返り」や、研ぎ足らない刃先の指摘を、ムラカミさんの指先だけでなく、電子顕微鏡の画面映像で指摘されるものだから、素直に頑張るワタシなのだった。

 
  

もうひとつ、オモシロイ実験があって、ムラカミさんの個別指導の元、自分が研いだ刃物で、トマトやキュウリやニンジンやナスを切って、その以前の切れ味との違いを体感し、参加者の誰もが喜ぶのだけれど、ムラカミさんが、食材の味が、刃物によって変化するのだ!という実験をしてくれた。ハガネの和包丁を天然砥石で研いで切ったトマトとニンジン。ステンレス刃物を天然砥石で研いで切ったトマトとニンジン。ステンレス刃物を人造砥石で研いで切ったトマトとニンジン。

それぞれが、微妙に味が違うのだ。ステンレス刃物と人造砥石の組み合わせは、なぜか、味が薄まるような感じがし、天然砥石のハガネとステンレスの差は微妙だが、甘みを感じる。ま、ブラインドですると、あの一流か二流かのテレビ番組のように、エエ加減な味覚の識別になってしまうのだろうが、でも、なんとなく違うのだ。そういえば、コロナステイホームウィークで、ステンレスのダッジオーブンを使って、ローストビーフを作ったが、なんか、微妙な味で、今回の体験を踏まえ、やっぱり鉄のダッジオーブンの方がエエとおもえてきた。なんだかステンレスは味が薄まるのだな…..。

コロナ影響を考慮し、主催者側の私たちは、それなりに気を使うワークショップだったが、そんななか、さまざまな配慮をしながら開催してくれた、研ぎ師ムラカミさんの、超マニアック度に、感謝したい。

 

さてさて、今週、八ヶ岳で、木製サッシュを製造する、アイランドプロファイルの工場と別荘にお邪魔した。アイランドプロファイルの石原社長と建築家の秋山東一さんと、3日間、八ヶ岳で過ごした。きっとワタシに、アイランドプロファイルの高性能な木製サッシュが、特にその金物の素晴らしさが、「転写」されたのだ。工場の機械も凄かった。


それと、秋山東一さん設計のBeハウスという木造の構造システムと、その構造を使って、永田昌民さんが設計した空間と、その設計図をもとに、もとアイランドプロファイルの社長自らがセルフビルドした、アイランドプロファイルのサッシュのショールームを兼ねた別荘住宅で、飲んだり食べたり会話をして過ごした3日間で、おそらく、ワタシに、その建築的エッセンスの何かが「転写」されたのだとおもう。この場をかりて秋山さんと石原さんにお世話になった3日間のお礼を申し上げたい。

 

研ぎ師ムラカミさん曰く。刃物は、毎週とか、少なくとも月一度とか研いだ方が、エエですよ。だって、今回、それぞれの刃物を直すのに1~2時間掛かったじゃないですか。毎週とか月一なら、ほんの数分研ぐだけで、切れ味もその食材の味も良くなるのですから!っという。なるほど。確かに。

「転写」は表面的な現象で、それが、伝統やDNAにまでなるには、永続的な繰り返しが必要なんだろう。あの八ヶ岳で「転写」された、建築的なサムシングエルスが、ワタシや木村工務店に根付くには、エエ砥石で、そこそこの短い間隔で研磨続ける。そんな鍛錬のようなワークスタイルが必要なんだろうな…..。

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