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住宅建築 2001年2月号

自然素材

つくりけることはできるのか

吹田の町屋

設計=三澤文子・Ms建築設計事務所
施工=木村工務店

敷地は大阪府吹田市. 新旧の建物が建ち並
ぶ密集した住宅地である. 敷地の隣には,
狭い敷地でありながら,季節感のあふれる線
豊かな生垣と,平屋の古い瓦葺きの建物があっ
た. それは, 忙しく通り過ぎようとする足
を緩ませ,暗がゆっくりと流れているような
場所に思えた.

そこでその懐かしささえ感じられるその雰囲
気を壊さぬよう,建物は道路側に下屋をまわ
して建物のボリュームを抑え, さらに目線に
近い外壁には,土佐漆喰に藁すさと黄土を混
ぜた素材感のある壁を配することにした.
住まい手は, ご夫妻と成人された娘さんの3
人. 山陰の田舎の家ですごされたという経
験を持っている奥さんは,和室の続き間のあ
る住まいを希望された. そこで,その和室
と連続する土間空間を提案した.

土間の床は, 門扉から南にわたる庭先までを
たたき風に仕上げ,窓を天井一杯まで広げた
ことにより,大きく開いた窓から降り注ぐ太
陽が, 暖かく心地よい空間を与えてくれる.

暖かい要因として,外壁に構造用合板の代わ
りにJ パネルを落とし込んでいることが挙げ
られるだろう. 構造材には徳島の木頭杉を
使用しているが,90年生の杉はJ パネルと同
様に力強く, また,木のぬくもりを与えてく
れている.
シンプルな住まいと同様に, ご夫婦は定年を
間近にして, それぞれの趣味の時間を大切に
した暮らしを描いている. 時々, この土間
にはご夫妻の友人が集い, ご主人は趣味であ
る手品を披露し,奥さんは手料理でもてなさ
れているそうだ. 土間に続く小さな庭は,
奥さんの友人の手で世話されているとのこと.
その庭に植えられた木々が来春に芽吹くよう
に, この場所から,この家族に新しい交流が
生まれ,広がっていくことを願っている.
竣工してから言われたご主人の言葉が印象深
い「この家は,私たちの最後の棲家です.
この家と共に過ごして行くために, どのよう
に世話をすれば良いのですか」と.
設計の手を放れた住まいは,その住まい手と
共に年を重ね,お互い支え合いながら,年輪
以上の人生を送って欲しいと願っている
(水野圭子)