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住宅建築 2000年7月号

える

各地の国産材を家づくりの
現場に届ける木童の活動

徳島、相生町で出会った材を使う
相生杉の家ー1

設計=猪股浩二+原朱美/猪股建築設計事務所
施工=木村工務店

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木材を通して産地と設計者を結ぶ
木童のポジション
「想い」の伝わる本物の家を

木原 巌
森の人たちに出会えるチャンスがあった。 お爺さんの代から受け継がれた、その 木々
たちの中から 適材適所の材を選び、 こだわりをもって製材している森の人たち がいた。
また、都市部で、一生に 一度か二度できる かどうかわからないわが家づくり に積極
的に参加したいという住まい手と 、それに 真剣に取り組みたいという工務店、 そ して
設計事務所がいた。 だが、この両方の想いがなかなか 通じて いないことに 気が付いた。

その原因は複雑にからみついている流通にあるのかも しれない。

森の人たちの熱い想いで送り出したその 材が、これから一生近くをともにする住 まい
手に感じてもら えていないのは、本 当に悲しいことであるように思えた。

林産地では丹精込めて育てた一本一本の 木が安すぎて、切るのに人件費すら出な
いと言っている。
片や消費者側では、 国産材は高すぎて手が出ず。輸入材に目 が行ってしまう。おか
しいではないか。 日本には、使える 木がたくさんある。 むしろ余っているくらいで、十分
に国内 で消費できる分は山にある 。それを使 い、また山にお金を返すことによって、
またよい木が作られていく、それを続 けたい。

そういった林産地の想いや、産地背景を、 住まい手や工務店や設計事務所に 伝え
るべく、活動を始めた。 一件一件を自分の足で回ってこの状況を 伝えていった、これ
が7年前、「ウッド コーディネーター」なるも のの始まりで ある。

小さい頃より木に親しんできたその純粋 な気持ちをもって,名を「木童」とした.

最近出回っている輸入材の柾目無節の影 響から,敬遠されがちになった国産材の
節有材に着目. これ を使っていくこと で,木の歩留まりをよくしようと考えた.
小さな節なら強度にも何ら問題はない. むしろ味があっていいではないか. そんな想
いで気がつけば5年間 に2 ,500 社を歩いていた. 最初の2 年間は, なかなかこの想
いが伝 わらなかった. しかし, これが徐々に 土に水が染み込んでいくように浸透し
て いった.

ある神戸の工務店が, 熱意に負けて「一 度使ってみようか」と言ってくれた. そこで
長野県のカラ松を使うこと になっ た. ところが,使うたびに,不良品, 納期遅れの連
続だった. カラ松は,ね じれながら育つため,あば れやすい. モルグーという機械を
通せば,その瞬間 は, どんな木でも全て同じ形で出てくる が,切り旬,乾燥 工程に
注意を払わない と, いい材料にはならない. そんなな かで試行錯誤しているときに
出会ったの が, 別項で紹介している(協)エルクの南波工場長である. そこでの,木
をよく 知り尽くし,確立された工程に,品質 管理の重要性を実感する. また林産地側
にも使い手側からの要望を 聞いてもらった. その甲斐あってか, 木は息をしているも
のだから, まったく 狂いがないとは言い切れないが, おおむ ね納 得のいく材に仕上
がってきている.

当初は,壁床材からのスタートであった が,住まい手より,柱や梁などの構造材 もや
ってほしいという依頼 がくるように なった. すべてをコーディネートするのは,最初は
3 棟ぐらいであったのに対し,今では 8 0棟 近くまでになってきている. 床や 壁につ
いても,全国に15 ,000〜20 ,000坪 出荷できるようになった.

共通の想いで一緒に仕事をしてきた設計者や工務店とも,今日ゆるやかなネット ワー
クが広がりつつある. そしてそれ が住まい手にも届くようになってきた. 今後も,この
純粋なる林産地の想いを住 まい手に伝えて いきたい. そして住ま い手や工務店,
設計事務所の熱い想いを, 森に,そして全国に伝えていくことが,

木童のポジションだと考えている.
 
 

相生杉の家−1

設計=猪股建築設計事務所
施工=木村工務店

実に、木と土壁の
バランスの取り方がうまい。
初めて彼らの住宅を見たとき、
左官仕事の素晴らしさに、
素人の私は思わずうなってしまった。
奥さんのきめこまやかな心配りと、
ご主人の人当たりの良さが
住宅にも表れて、
住まい手も大満足の様子。
今後も木や土の家を
作り続けて欲しい。

(木原巌)
 
 
森を訪ねて(国産材の達人たち)  解説=木原 巌
広葉樹のふる里
●北海道旭川市[東邦木材]
極寒迫る北海道旭川市に東邦木材
( 株)がある. 昭和30年に設立され
現在の井口社長で三代目となり,北海
道産材にこだわり,ナラやカバ,タ
モ,ニン, センなどの家具用材や建
築用造作材を製造している. かつ
ては,特にナラ材をドイツ,ベルギ
−,イギリスなどヨーロッパ向けに
高級家具材として数多く輸出してき
た経緯があり,今でも常時2.000立
米以上の広葉樹の原木が所狭しと積
み上げられている.

私がこの工場を訪れたのは1998年の
1 2月だった. 樹齢300
年以上もの
ナラやカバ材で作る家具のすばらし
さは目を見張るものがあったが,そ
れと同時に節があるためB 級品扱い
される原板の多さにも驚かされた.
もったいないと思い,さっそく私は
工場担当の古川氏に,節があっても
よいのでナラ材で巾広の床材を作っ
てほしいと依頼した.
後日送られてきたナラ巾広節あり床
材の出来栄えのすばらしさは言うま
でもなかった.

北からの風
●岩手県岩手町[ノルトヴイン,稲村製材所]
岩手県岩手町に地域の製材業11社に
より平成4 年に設立された(協)ノル
トヴインがある.
姫神山,岩手山を望み,赤松,クリ,
カラ松の乾燥加工を手がけている.
南部赤松は,御堂松ともいわれ,広
葉樹との混在林だったのだが,炭を
焼くためナラなどの広葉樹が伐採さ
れ,赤松が多くこの地に残ったとさ
れている. その筈, この地方は寒
冷地のため飢饉にさらされることも
多く,各家々はそれに備えて栗の実
を非常食にするため,栗の木を植林
していた.
同じく岩手町に赤松専門の工場,稲
村製材所がある. 昭和21年創業以
来,現・稲村社長で三代目で, 当初
はお酒の木箱などを赤松で手がけて
いたが,時代の流れとともに,それ
らもプラスチックに取って代わられ,
今では,樹齢60〜 70年生の南部赤松
で,柱梁などの構造材や床板,壁板
の製造を行っている.
岩手山から吹き下ろす寒風に耐え生きてき
た赤松や栗を建築用材とし
て,都市部の住まい手に,北からの
さわやかな風とともに送り込めれば
と思う.



奥能登でヒバとの出会い
●石川県鳳至郡穴水町[表製材]
ある設計事務所から「石川県の奥能
登へ行ったとき, 家々の外壁に楷の
木というのが張ってあるのですが,
京阪神でも使えますか?」という話
が舞い込んだ. さっそく私は現地
の友人をつてに奥能登まで足を運ん
だ. 友人が紹介してくれたのは,
石川県穴水町の表製材だった.
表さんは楢の木の製材だけを, この
道40年間続けてきた, こだわり中の
こだわりで,私にとっては非常にい
いガンコなオヤジさんだった.
表さんの話によると, この地方では
能登ヒバのことを楷の木と呼び,青
森県の青森ヒバが天然林であるのに
対し,石川の能登ヒバは全て植林木
だとのことだった. 加賀藩であっ
た頃,領内に良い木材が無かったた
め, 当時,苗木移出を禁じていた津
軽へ, 農民に変装した藩士が潜り込
み, ヒバの苗木を持ち帰って,能登
各地に配ったという説がある. 奥
能登の厳しい気候風土は能登ヒバを
育てるのに適し,それが現在の楷林
業に至っているのだと思う.
能登ヒバは7 種類に分けられるのだ
が,一般建築用材として出回ってい
るのは,マアテ, クサアテ,カナア
テの3 種類である. マアテは死節
や入皮が多く,ねじれやすいが,耐
食性に富むため,主に土台用として
使っている. クサアテはマアテに
くらべ非常におとなしく,床材や壁
材,柱梁など, どの部分にでも使う
ことができ,特にこの工場では120
年生の二番玉の赤身材でのみ床壁材
を作るという徹底したこだわりが見
える. カナアテは3 種類のアテの
なかでは最も植林数が少なく,板に
すると,木根のような模様が現れ,
性質はマアテに近いため,土台など
に多用されている.
奥能登の穴水町から輪島市方面に向
いて見渡す限りの山々は,全て能登
ヒバが植林されていると言っても過
言ではない. 我々の先人たちが残
してくれたこの財産を,大切に有効
に使っていきたいと思う.
長野県はカラ松発生の地だ
●長野県小県郡東部町[エルク
古くから軽井沢や浅間山麓に自生し
ていた天然カラ松の苗木が改良され,
岩手県や北海道に植林されていった.
カラ松は材の特性上,ねじれやヤニ
の問題が顕著に現れる樹種であるが,
このジャジャ馬のような木をおとな
しくさせる達人がいた. 長野県東
部町にある(協)エルクの南波工場長
だ. 以前,南波氏がカラ松の加工
板の製作工程を熱い思いで語ってく
れた. その中で特に心に残った言
葉が, 次の言葉だった.
「木の蔓本は乾燥だ. 乾燥イコー
ル桟積みだ」
そう言ってカラ松の桟積み現場を案
内してくれた. 30cm 間隔で美しく
積み上げられているカラ松の原板を
見て, この工場のカラ松に対する思
い入れ,製品に対する心配りが手に
取るように伝わってきた. こうし
丁寧に桟積みされたカラ松の原板
の上に1.5 t のコンクリートの重し
を載せ,材の暴れを矯正し(圧縮乾
燥),蒸気式の高温脱脂乾燥を行う乾
燥機から出てきた板は, コンクリ
ートの重しを載せたまま約40〜50日
間,含水率が12〜 13% にまで戻るよ
うに養生期間を置いている. この
養生期間の長さが, この工場のこだ
わりでもあり,これがまさしく南波
氏の言う「木の基本は乾燥だ」の原
点なのだろう.
以後,私がいろんな工場を訪問する
時には,何気なく積んである板の桟
積み状況を見ることにしている.
桟積み作業に心が入っているかいな
いかで, その工場の製品精度が推し
量れるからである.
杉の町,智頭町
●鳥取県八頭郡智頭町[サカモト]
鳥取県の智頭杉は,秋田,吉野に勝
るとも劣らない良材の杉である.
1 700年代から池田藩の奨励により植
林がなされており,智頭町には当時,
山奉行が置かれていた. そんな智
頭杉にだけこだわって製材をしてき
た会社がある. 鳥取県智頭町にあ
る(株)サカモトだ. 昭和35年創業
以来80− 100年生の杉だけを製材し,
主に中国地方や九州地方へ,杉の役
物として出荷してきた.
初めてこの工場を訪れた時, あまり
の杉の大径木に驚き,またそれから
作り出された構造材の美しさと力強
さに感服したのを覚えている.
二代目の坂本氏は「住宅は, できあ
がった時より住んでからのことを考
えて」と杉の乾燥を研究し, コンテ
ナを改良した自社オリジナルの乾燥
機まで作り出したほどの, こだわり
の人物である.
1 0年前より智頭杉の大径木から作り
始めた壁材は,柾目の部分が非常に
繊細で,壁や天井に使うと部屋中が
和らいだ感じがする.
全国でも数少ない高林齢の杉の森林
が多く残されている所でもあり,一
度足を運ばれることをお勧めしたい.
葉枯らしにこだわる徳島杉
●徳島県那賀郡相生町[平井製材所】
徳島県相生町に葉枯らし乾燥にこだ
わって製品を作っている平井製材所
がある. 大正5 年創業の老舗で,
常務の平井氏で四代目になる.
山林から製材,製品加工まで一貫し
て行っており,この工場の山林部で
は9 − 2 月までの間に伐採した杉の
原木を, 山で約4 ケ月間葉枯らし乾
燥し,製材した原板を約3 〜 6 ケ月
間天然乾燥後,製品力ロ工している.
私が初めてこの工場の杉で作った壁
床材を見た時,あまりの美しさに感
動を覚えた. 一般的に杉の葉枯ら
し天然乾燥材の壁板や床板はよく目
にしていたのだが,それらとは明ら
かに何かが違うのである.
その理由は次の通りであった.
もともと平井製材所は60〜80年生の
杉の山林を買い付け,伐採するのだ
が,成長の遅れた直径18〜22cmの小
さな原木の, それも元玉だけを製材
し,壁床材を作っている. よって,
目が非常に詰んでおり,天然乾燥独
特のツヤが生まれ,また元玉を使う
ことにより,節もその木の幼年期の
枝のため小さく, あまりうるさく感
じられない. 一般的に間伐材や中
目材から作っている壁床材とは,歴
然とした違いが出てくる.
原木が山から10m , 12m 材と長尺で
出てくるため,構造材としての長物
も比較的取りやすい.
今後は葉枯らし乾燥と,補助的に人
工乾燥を行い,材の安定を保ちたい
ということだった.
幻の土佐栂
●徳島県三好郡三加茂町[伊原製材所]
ひと昔前まで, 関西地方では「栂普
請」と言って, 内地栂を使った住宅
が非常に好まれていた. 今では天
然林の減少とともに内地栂は幻の木
となってしまったが,徳島県三加茂
町に,全国でも珍しい内地栂専門工
場,伊原製材所がある. 昭和39年
創業以来,モミや栂で学校給食のパ
ンの木箱を作り続けてきた. 大手
メーカーのパンの木箱も手がけてい
たのだが,大阪万博の頃から木箱が
プラスチックに替わり始め,その頃
から内地栂専門の建築用材を作る工
場となっていった.
内地栂は主に高知県西部の四万十川
上流や剣山山系などに自生している
ため土佐栂と呼ばれ,樹齢も200〜
4 00年に及び,良質の原木は,もう
ほとんど入手できなくなった.
伊原氏は,まわりの製材所が「栂の
製材をすると財産をなくす」と,歩
留まりの悪い栂の製材を次々と止め
ていくなか,黙々と今日まで続けて
きた, こだわりのオヤジさんなので
ある.
内地栂は壁材や床材にすると,純白
で緻密な木目を出し,清楚な美しい
仕上がりになるのだが,ねじれなが
ら何百年も育った木であるため,ね
じれ,あばれ,すきの問題がでてく
る. そのため, この工場では,製
材後,約半年間天然乾燥を行い,人
工乾燥後約3 ケ月間養生期間を置い
ている.
数少ない内地栂. 今後も大切に使
っていきたいと思う.
杉の人工乾燥にこだわる
●宮崎県都城市[都城木材]
宮崎県は杉材の製品出荷量が日本屈
指の県. .そのなかで,杉の乾燥を
極めようとしている工場がある.
宮崎県都城市の都城木材である.
山林部門から製材,乾燥,製品,チ
ップに至るまで一連の流れを全て自
社で行っている. 昭和15年設立,
九州各地の国有林から搬出される広
葉樹から,農作業に使うクワやスキ
の柄木を作るのが主であった..
私がこの工場を訪れて,まず最初に
驚いたのは,古い工場にもかかわら
ず,実にきれいに整理され,環境整
備が徹底されていることだった.
一目見た瞬間から「この工場なら」
という思いで,担当の戸高氏に工場
を案内してもらった. 工場内には,
スピドラという見慣れない木材乾燥
の前処理工程を行う乾燥機のような
機械が据え付けてあった. この機
械の中に杉材を入れ加圧減圧を約8
時間繰り返し,木の導管を大きくし,
水分を抜けやすくするのだそうだ.
この後,蒸気式乾燥機に入れられ出
てきた杉の梁桁材を見て,私は目が
テンになった. 含水率が20% を切
つた芯持ち材のそれらが,全くと言
っていいほど割れが入っていないのである.
手で持ち上げてみると,
片手でとヨイと持ち上がった. こ
こまで来るには試行錯誤の連続だっ
たと思う.
この工場には,初めて目にするもの
が,まだまだ幾つもあった. 一連
の作業工程のなかで,高周波で自動
的に含水率を計り,同時に打音によ
りヤング係数を出す, グレーデイン
クマシーンまで完備していたのであ
る. ここまで設備投資をしたこと
について,戸高氏は「乾燥や性能表
示をすることによってお金儲けをし
ようとは思っていません. それを
することによって,木材の品質を高
め,安心して国産材を使ってもらえ
るようにしたいからなのです」と話
した. 吉野杉や秋田杉と違う一般
並材だからこそ,手をかけて,品質
を高くしようとするこの工場の意気
込みが,キラリと輝いていたように
思う.