2007年05月06日

直島

P1040473 何で、直島に行くことになったのか、 よく思い出せないのだが、昨年のゴールデンウィークの五島列島が楽しかったからかもしれない。兎に角、「島」 に行こうということになり、それが「直島」だった。昨年の12月にベネッセハウスのホームページを見て予約をすると、 オーバル棟の空き部屋はひとつだけだった。そういやぁ、スィートルームは空いていたかもしれないが、はなから、 自分達の泊まる部屋だという感覚がなかったので、眼中に入らなかった。どちらにしても、それほど人気があるのだとは、 全く知らなかった。

建築雑誌を通じて見聞きしていた、最近出来た安藤忠雄氏設計の木造の宿泊棟「パーク」と「ビーチ」にも魅力を感じたのだが、 コンクリート造のオーバル棟のあの不思議な安藤建築の魅力により強く惹かれた。勿論、 建築雑誌を通じて見ていた地中美術館や家プロジェクトにも大いに興味があった。

P1040111と、書いたものの、建築雑誌以外の予備知識もなく、特に、アートに関する知識が乏しく、 ホームページで調べる時間もさほどなかったので、どちらかと言えば、行き当たりばったりの旅の始まりだった。 朝7時に宇野港フェリー乗り場に着くと、観光客よりも仕事関係の車両でいっぱいだった。時刻表を見ると、 6時台に2隻が出航しそれ以降は1時間おきに船が出ているようだった。どうも、7時台までは、観光客より生活と 仕事のための船として使われているのだろう。直島フェリー2船室で、休んだという感覚を持つか持たないぐらいの、あっという時間で、直島に着いた。 到着したのは最近の建築雑誌で見ていた、妹島和代+西沢立衛 設計のフェリーターミナルだった。写真以上にええなぁ・・・、 なんて思いながらも後ろから押してくる車にゆっくりも出来ず、勢いに任せて、そのまま、町の中に走り出した。

P1040124 島の状況が全く掴めないまま、とにかく、ホテルに向かった。予約を確かめながら、 ホテルの人に話を聞くと、何でも、地中美術館は3時間待ちになり・・・、もうこれからすぐに行って、待っている方がいいですよ。 と勧められた。観光客の少ない、ノンビリした島を想像していたのだが・・・・・。

P1040129P1040130地中美術館にチケット売り場がなく、少し離れた所に、 シャープなチケット売り場の建物があって、外壁のスレートをそこ目地で貼ってあった。 9時30分のチケット販売時には100人以上の人でいっぱいだった。9時前に着いた私たちは、前から5番目だった。 カメラの持ち込みを許されず、ロッカーに預けるように指示された。

P1040126 地中美術館は建築雑誌で見るコンクリートの壁の存在感よりも、 実際は、コンクリートの壁で切り取られた自然に目が向くようなイメージが強かった。現代アートのように、 抽象化された自然を意識させられて、写真で見たイメージより、ずっと体感があって、良かったなぁ・・・・。

ゆっくりと見ていこうとすると、係員の人が、どんどんいっぱいになって、見るのに待ち時間が出来るので、早い目に、 こちらから見ていって下さいといって、案内されたのがジェームズタレルの「オープンフィールド」だった。

「光を体感する」というのは面白い経験だった。靴を脱いで、光の中に入って行くという体験はそれなりの驚きと感動があった。 奥方も息子もそして、私も同時に「ワー、凄い」と思わず、叫んでしまた。それほど印象に残る作品だった。もう一回と思ったが、気がつくと、 行列が出来ていた。

次の「スカイフィールド」 の空を見上げると、奥方が聞いてきた。「上に硝子があるの、ないのぉ」それほど、開口部がシャープなエッジで出来ていた。施工、 たいへん苦労したやろなぁ・・・と、眺めながら、切り取られた硝子のない空を見上げた。夕暮れ時に是非、訪れたいものだなぁ・・・・。

夜、ホテルの送迎車の中で、運転手のひとが、「はじめて、クロードモネ室に入って、ひとりきりで見た時、 足下が震えました・・・」と語ってくれた。それほど、クロードモネ室はモネの魅力と共に空間的な魅力もあったのだと思う。 大きな天窓があるはずなのに、自然光が直接目に入らず、間接光として柔らかい光が降り注ぎ、 コーナーのエッジがビシッとしている安藤建築の中にあって、4角にとられている大きめのRが、より光を和らげ、 足下の白いモザイクの大理石が身体感覚を促し・・・・。そんな印象だった。

行列に並んで、少し待った後、ウオルター・デ・ マリアの部屋を見る。今、家で、あらためて、その部屋の写真を見ると、コンクリートと石と階段と棒が目立っているのだけれど、 実際の部屋では、「光」の印象の方かより強かった。係員に聞くと、球とその余白の空間も含めて、完璧に計算されているとのこと。 細長く空けられた天窓は、東西方向に長いらしい。

地中カフェまでたどり着いてようやく、 瀬戸内海を目にする。ちょっと遅い朝食をとりながら瀬戸内の島々の美しい景色を眺める。まわりの人々にも、静かな時間が流れているようだ・・ ・・。

美術館を出て、駐車場に行くと、いっぱいの人だった。既に、3時間待ちらしい・・・。若いカップルが圧倒的に多い。家族連れは少なく、 熟年層はチラホラ、そして外人もチラホラ。確かに、この島には、 若い人を惹きつける魅力があるのだなぁと思う。前回の五島列島で見た、 自然と教会建築と光と文化が、この島には、現代的な形で、 自然と建築と光とアートと文化があふれているのだと思う。 意外だったのは、 小学校5年生の息子が素直に馴染んだ事だった。 P1040413不思議な思いを持ちながら、直島で買った本を眺めていると、 安藤氏の言葉に 「福武さんの直島で親と子が、芸術的感動を共有し、 心を通わせることができれば・・・・」と書かれたあった。 確かに、 親子で芸術的感動を共有できたよなぁ・・・・。

 

投稿者 木村貴一 : 16:49

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2007年05月20日

家プロジェクト(直島その2)

P1040131直島地中美術館を見たあと、 家プロジェクトに行くことにした。 駐車スペースを探している時、昔、建築雑誌で見た、直島町役場に出くわす。その日、それまで見た、 宇野港のフェリーターミナルや地中美術館やそのチケットセンターの記憶と比べてみると、「デザインって何かねぇ」と、 考えてしまうなぁ・・・・。

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P1040135「古い家屋を改修し、アーティストが家の空間そのものを作品化したプロジェクト」が、 家プロジェクトらしい。通りには、それなりの人数の観光客が歩いていて、そのまわりの様子に従って、「たばこ屋」 さんでチケットを買う事にする。チケット販売をするタバコ屋のおじいちゃんとおばあちゃんに「直島の歩き方」を教わった。

島に訪れる前には、ひょっとして、古くからの町の住民とベネッセアートサイト直島が乖離しているのではないのか・・・。とも思ったが、 そんな風でもなさそうだった(実態は知らないけれど)。アートが町を活性化させる実験場でもあるのだろうか・・・。そして、 少しずつ活性化されているような雰囲気だった。

この木村工務店があり、私も住む、小路の長屋。かつては、玄関の戸を開けると、家内工業による「ものづくり」が突然、 目の前にあらわれた生野区や東成区の町並み。そんな町にも、試しに、「家プロジェクト小路」として、展開してもらえないだろうか・・・・ とさえ思えた。

P1040150 まず、「角屋」 に行く。家の中の通常、畳の部分に、水が敷き詰められていて、薄暗い部屋の土間の水の中で、数字のカウンターが点滅していた。 ヨーロッパからの観光客とおぼしき、脚の長い金髪の美人2名と男性。私たち家族。他に4人ほどの男女が、静かに、 それを眺めて座る・・・・。内容はよく理解できないけれど、アートも含めたその空間全体に漂う、「静けさ」が良かった。そして、 こういう、さりげない民家の修復も、出来そうで、なかなか出来ないのだなぁ・・・・・と、職業柄、眺めた。

P1040155角屋を出て、坂道の階段を上がって、次のプロジェクトの「護王神社」 に向かった。 地下の石室を見るための行列が出来ていて、先ほどの、外人さんの後に並んで、15分以上は待った。 チケット改札員件、案内整理係のふつうのおじさんに話を聞く。もともと石室は、なかって、今回、新たに作ったのだとか・・・。 そんな事を考えると、大胆な「神社」の改修工事でもあった。町の住民と、上手くコンセンサスがとれたものだなぁ・・・・と、 やっぱり、職業柄、感心する。神聖さというよりはオブジェ的でもあった。柱の下の大きな一枚の石が、 石室の天井になっていると気付いたのは、護王神社を離れてからだった。

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P1040199P1040198直島の道幅の狭い、町並みを散策しながら、「南寺」 に向かった。安藤建築とジェームズタレルのコラボレーションらしい。護王神社以上の行列が出来ていて、正直、驚いた。 30分近く待つ事になった。

不思議な体験だった。20人ほどが、前の人の肩に手をあてて、行列をなして進んでいく。ちなみに、私の前は息子。後ろは奥方。 息子の肩に手置いて、奥方の手が私の肩に載って、暗闇の中を進んで行く様は、自分の老後を想像させられた・・・・・・。

真っ暗だった。目を見開いて、見開いて、見ても、暫くは何も見えなかった。「突然」とよんで良いのか、「スゥーっと」と、 よんで良いのか、「何となく」とよんで良いのか、目の前に光りがあらわれ、まわりの人々が暗闇の片隅から、光に向かって歩いていく、 ざわめきが湧き起こった。光は最初からそこにそのように存在していたのだが、暗闇に目が慣れるまで、見えなかっただけだった。

暗闇で家族の位置関係を失わないように手を握りながら光に向かって進み、光に手をかざして、光を物質のように体験する。そして、 反転し、お互いがはぐれないように気遣いをしながら、出口の光を求めて、歩んでいくのだった。外に出ると、黒い板貼りの外壁、 軒の出の長い黒い庇、隣の土壁の塀と木、太陽の光、カップルの多い行列が目に飛び込んできた。「若い女の子とデートで行く方が、もっと、 ええんとちゃう」という、おじさん的なこころが去来するのをこっそりとやり過ごしながら、隣接する公園から建物を眺めた。

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P1040282カッコイイ便所で用をたした後、町を散策しながら駐車場に向かった。「きんざ」 というプロジェクトは予約が必要らしい。何ヶ月も前からでないと、予約が取れないと。残念。P1040268ちょっと疲れたので、お茶を飲もうとするが、どこも、いっぱいで、行列が出来ていた。やっと、 「本村ラウンジ&アーカイブ」のソファーでくつろぎながら、パンフレットを眺めていると、「山本うどん」 といううどん屋さんがあって、地元では有名らしい。そんじゃぁ、お茶は諦めて、うどんでも食べた後、 ホテルにチェックインしようかと話がまとまった。

P1040289車窓から「作品」を眺め、昔 の建築雑誌に掲載されていた中学校の校舎を眺め、 フェリー乗り場から家プロジェクトまで、かなりの距離の道を歩いている、期待の入り交じった表情の沢山の人々を眺め、 007プロジェクトの展示を覗こうかと思いながらも、やっぱり何となくやり過ごし、再び、 宇野港フェリーターミナルの簡素でシャープな美しい建物を通り越して、山手のスーパーの一角にある「山本うどん」に到着した。

P1040292店の人にお勧めを聞くと、肉うどんだとか。夕食の事が頭にちらついて、家族3人で、 2杯のうどんを注文することにしたら、一口食べて、美味しかったのか、息子に全部食べられてしまった。それで、 もう一杯注文することに・・・・・。そうそう、 この直島は、岡山県ではなくて、四国うどんの香川県だったんだなぁと、舌で、 再認識したのだった。

 

 

投稿者 木村貴一 : 13:45

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